黒のフレアースカートは全体にレースがあしらわれている。日に当たると繊細な模様が浮かび上がるのが優美だ。しかし何故我が君が、この高級そうな服をわたくしにお与えになろうするのか。

「い、いただけません」
「お前、開店してから休んでないだろう?」
「まあ、そうですが」
「たまには休め。これ着て、出掛けてこい」
「そんな!あなた様だって、お休みになられていませんのに!」
「ならおれさまも休む」
「…はい?」
「む、そうだな。一緒に、ロンドンにでも行くか」

え、ええええ




ピンクのローブは目立つとご忠告をうけたので置いてきた。ベラ姉様に代わりのお店番を頼み、そしてノクターン横丁の裏道から、ロンドンへ。

久しぶりに晒した足の、不健康な白さに自分でも笑ってしまう。我が君にいただいたスカートにいつも着ている白のブラウスを合わせると、それだけで仕事着が華やかになったような気がした。我が君には、なんだそれを着るのかと呆れられてしまったけれども。春だ。温もりを帯びた風が、やはり久しぶりに結んでいない、わたくしの髪を靡かせる。

「さて、どこに行くか」
「我が君の、お心のままに」
「阿呆か」
「え、……ひっ」

冷たい指先がわたくしの手をすくった。そのまま握られて、歩き出す、街中。

「わがきみ!だめです!」
「何が」
「あ、あなた様の手が、汚れてしまいます!」
「…阿呆」

おまえは、開店する日におれさまの手をとっただろう。何故今更
あの時は、我が君を励ましたくてっ、今は手をつなぐ必要などありません!
理由があればいいのか?
いえ、そういうわけでもなく!

いえばいうほど、つなぐ力は強くなり、そのうち何か抗えない力に足をすくわれ、わたくしの体は前に倒れる。が、我が君に腕を引っ張られ、踏みとどまった。

「ほら、おまえは転ぶから」
「我が君…、杖が見えています」
「さあな」

目元をやわらげ笑う。いつから我が君は、こんなにも優しい笑みを浮かべるようになったのだろう。わたくしは恥ずかしいやら申し訳ないやらでただ俯いて、楽しそうな主人に手をひかれ歩いた。

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