彼を、すっかり好きになってしまったわたしは、なんとかして接点を作りたいと思っていたけど、それはとても難しいことだった。ブラックくんはいつも仲良しグループの誰かと一緒にいたし、たまに隙があればわたしと同じような気持ちの女の子たちがわんさか彼の周辺に押し寄せる。とてもじゃないけどあの中には入れない。

あの日の、ハンカチーフを拾ってくれた、あの出来事も、夢だったのかしら。なんて思って、溜め息をついてみる。(ああ、ブラックくんは、今日もすてきね)しがないレイブンクロー生のわたしは、遠くの席から彼の姿を目で追いかけるだけ。

「おーい、シリウスう!」
「んだよ、あさから、うっせー、じぇえむず」

(朝が弱いんだっけ)ちょっと、かわいい。さくさくのクロワッサン。大好きなひとのかわいい姿といいかおりの紅茶。

(あ、)
(ブラックくんが)
(こっちを)

向いた。

そしてすらりと長い足が右左交互に動いて、あの時とおんなじように、わたしのほうにやってくる。一番にして最大の違いは、彼の手にわたしのハンカチーフがないこと。(つまり、わたしに近付いてくる理由がない)ええ、なんで。どうして。何が。嘘。

「あのさ、」
「な、なに?」
「…おはよ」
「おはよ、う」

ああ、これは本当の本当に、夢なんじゃないかしら!ブラックくんが、わたしに!挨拶をしに来てくれただなんて!

「ここ、いい?」
「え、あ、うん、ど、うぞ」

ブラックくんと挨拶を交わした時点で、わたしはいっぱいいっぱいなのに、どうして朝食を、い、いっしょに、なんて、堪えられるだろうか。いや、無理。向かいの席に座ったブラックくんは、朝が弱いらしいのに、チキンを山盛りお皿にのせて、むしゃむしゃむしゃむしゃ。

「チキン、好きなんだね」
「んん、むぉ、すき」

わたしはかあっと顔が赤くなるのを感じた。

すき。

すきって、ブラックくんの口が、声が、すきって、いった。ブラックくんはチキンのことを言ったんだ。必死になって、自分で自分のことを、頭の中で説得するけど、熱くなってくる頬はおさえられなくて。そして、一度食べる手をとめたブラックくんの次の言葉で、完全にわたしの脳は容量オーバーになった。

「それで、きみのことも、好きだ」

好き。好きって、今度は、わたしの、ことを。す、す、す、すす、すきって…!

混乱どころじゃなかった。自分の行動が、自分で制御できなくなった。そして、わたし、わたし、ああ、なんてこと。気が付けば、目を真ん丸にして、頬を赤くした、わたしとは別の意味で、赤くした、ブラックくんがいて、わたし、彼を、

力いっぱい叩いていたの。




110102 ニコ

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テーマ「人外ファンタジー」
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