恥ずかしくて、恥ずかしくて、わたしはわたしでもわけが分からないうちにブラックくんから逃げるようになってしまった。告白の返事はしていない。わたしも好きです。って、そういえばいいだけなのに。
「なあ、」
「!」
「逃げるなよ。外、行こう」
少し強引に腕を掴まれて、連れ出される。授業開始のチャイムが鳴った。ねえ、ブラックくんがいればわたし、プリンセスにだってなれる気がするの。
「俺になんかいうことは?」
「…逃げて、ごめんなさい」
「ああ、全く。アピールもさせてくれないなんてな」
「う、」
やっぱり恥ずかしい。わたし、未だにブラックくんを直視出来ていない気がする。肩が触れあいそうなほど近くに、ブラックくんの体があるなんて。自然と赤くなってしまう顔は、目の前に広がる湖からの冷たい風をもってしてもおさまってくれないようだ。ふいに、肩がぶつかった。反射的に横を見ると、思ったよりもずっと近くに顔があって、真摯なグレイの瞳にとらわれる。
「好きだ」
「あー!そのこが例の!」
「クソジェームズ!なんでここにいるんだ!!」
「ひゅぃっ」
第三者の侵入に飛び上がるほど驚いたわたしは、呼吸音にも似た声を漏らしながら、ブラックくんの腕に閉じ込められた。「えっなっえっちょっ、ぶぶぶぶら、っくくん…!」「あ、ワリイ。つい」つ、ついってなに?しかも、悪いっていいながら、ブラックくんはわたしを腕から解放する気配がない。
「いやあ、君がシリウスの!驚かせてごめんね!僕は…まあ知ってると思うけど、ジェームズ・ポッターさ!」
「は、は、はは初めまして」
おお、このひとが有名なあのジェームズ・ポッターくん、すごい髪の毛、なんて思う余裕はわたしには無くて、ブラックくんの体温と、においに、いっぱいいっぱいだった。はやく離して!はやく!ポッターくんもブラックくんも、わたしのことは無視をして、そのまま言い合いを始めてしまう。
「お前、授業はどうしたんだよ」
「さあね」
「ちゃんと出てこいよな」
「君にいわれたくないなあ」
「エバンズが怒るぞ?」
「そんな姿も可愛いからウェルカムマイエンジェル!」
「話になんねぇ!」
「どういたしまして!」
「…なんで来たんだよ」
「君ともあろう男が見とれて木から落ちたってくらいの女の子だろう。興味がわいたのさ」
「なっ、それいうなって…!」
「あっあの!!」
「「え?」」
「わたし、死んじゃいそう!」
いつまでも終わりそうのない会話に、わたしは息も絶え絶えに(これはブラックくんのせい)叫んだ。正直、彼らが交わしていた言葉はわたしの頭に入ってきていない。ジェームズくんを追い払ったシリウスくんにそういったら、彼は安心したような、残念なような、嬉しいような、そんな表情を作った。
110321 間宮