シリウスくんは、魔法の国に帰った。
ばいばい
たくさんサンキューサンキューって言われて、いっぱいほっぺにキスされて、ジェームズくんともたくさん握手して、そして、ふたりはバチンという大きな音を残して消えてしまった。
「バイバイ」
すっごくさみしいけれど、これでよかったんだ。シリウスくんは仲間がいる、シリウスくんの世界に暮らしたほうが、いいに決まってる。昨日たくさん作ったごちそうがまだ冷蔵庫に残ってるから、あれをお昼に食べよう。それで、溜まった宿題をやって、家族が帰ってきて、夏休みが終わって、うん、それでいい。いつもとおんなじ。この夏休みはちょっと特別な経験をしたってこと、それだけだ。部屋の隅に積まれているおもちゃもフリスビーも、何年も壊れたままだった網戸が新品になってるのも、ちょっとだけ、特別な、経験をしたって、こと。
「ばいばい」
自分自身に言い聞かせるように呟いた。バイバイ、シリウスくん。
100822 ニコ