いいなあ、魔法。だけどどう考えたって、わたしは魔女になれるわけなかった。それにシリウスくんがいつか魔法の国へ帰ってしまうのもわかってしまったのである。
憧憬
寂しいな。寂しいな。と、そう思う。ひとりになるのが寂しいわけじゃなくて、シリウスくんがいなくなってしまうことが、寂しい。
「シリウス」
テレビをみている(文字通り、見ているだけ)シリウスくんに呼びかければ返ってくる笑顔。やさしい笑顔。シリウスくんに対するわたしの気持ちは愛情で、家族やペットに抱くものにずっと近い感情だ。そりゃあそうか、一緒に暮らしているんだから。
ぼう、っと窓の外を眺めていると、小さな点が空を駆け抜け、近づいてきた。んん?なんだあれ?
「レイ!!」
ガシャン!
気がつけばわたしはシリウスくんにだきしめられていた。そして、シリウスくんの肩ごしに少し見える、わたしの目の前の窓は割れていて、野球のボールがコロコロ、足元を転がる。
「し、りうす。せ、せんきゅ…」
きっと近くでちいさいこたちが野球をしていたのだろう。慌てたようにピンポンピンポンと鳴り響くインターホン。謝りにきたらしい。
でも生憎、わたしは動けなかった。ぎゅうぎゅうとつよくなる力。たくましい腕。広い背中。シリウスくんは立派な男の子だったのだと、今さら気がついた。
100529 ニコ