白い息を吐きながら、ガシャガシャ雪を掻き分けて歩く。降りやまない氷の結晶が髪にかかった。感覚の無くなってきた手で払い除けるけど、今度は顔にかかってうんざりする。こんな寒い日、いつもならピーターだってリーマスだって、ジェームズにだって誘われたって絶対外にでない。それなのに俺がいま雪をかぶってるのは、レイに誘われたからだった。彼女は機嫌が良さそうに俺の数メートル前をぴょんぴょん歩いていて、俺とおんなじ黒髪も一緒に跳ねている。毛先はちょっと傷んでるけどすごく綺麗だ。銀世界で俺と彼女の色だけがぽっかり浮かんで、ここには二人しかいないように思わせた。

「ねえ!シリウス知ってた?」

振り向いた彼女は笑顔だった。ぐるぐるに巻いた赤いマフラーみたいにまっかなほっぺたをしている。他の人間の赤さならただ寒さを引き立てるだけなのに、レイのそれは可愛いと感じる。しゅっと細められた大きな目も三日月型のくちびるもかわいい。唐突な言葉に俺が首を振ると、レイは、なんでわかんないのーと頬を膨らませた。おおう、ほっぺが、あかいほっぺがぷくん。これが俺の彼女だ。羨ましいだろ!膨れっ面まで可愛い女なんて世界中どこを探したってレイ以外にいない。ツンとそっぽを向いて、スピードを上げて歩きだしたレイのあとをゆっくり追いかける。簡単に追いつけるんだけど、そうしたら彼女はもっと怒るだろう。そんな姿も見てみたい気持ちがあるんだけど。だって何しても可愛いからな!おれの彼女!どんどん距離が開いていく。ちっちゃな背中が豆粒くらいになったところで、俺は叫んだ。

「レイー!怒んなよー!」

声は雪に吸い込まれてあまり響かなかった。

「怒ってないもん!!」

無視すればいいのにちゃんと返事をするからかわいい。昔付き合ってた女とも同じようなやりとりをしたことがあるけど、その女とレイの怒ってないもんを比べるなんて馬鹿らしい。比べるだけで天罰が下るし、比べたところで勝敗は明らかだ。レイのは女神であの女のは断末魔みたいだった。レイと付き合ってる今、昔のことなんてぜんぶ遊びで本気じゃなかったんだなあ、て思う。レイならいくらだって可愛がりたいし、レイの我が儘はぜんぶ叶えてあげたい。

「シリウスーっ」

レイはよく怒るほうだと思う。よく怒るし、よく笑うし、よく泣く。なんで俺めんどくさくなんないんだろ、自分でも不思議だ。レイが作る表情は、レイがすることは、レイに関わるすべてのものはなんだって愛しい。「機嫌なおったかー?」と返した。豆粒くらいのレイは振り向いて、自分の口に両手をあててまた叫んだ。

「イー、っだ!」

それにしても、最近のレイは可愛すぎると思うんだ。遠すぎて表情は見えなかったのが悔しい。ていうかこんな距離あいてて今の言葉をいったレイが悪い。俺の目の前でやれよばか。もう少し彼女の思うままにさせるのもよかったけど、もう限界だ。大股で歩いて、どんどんレイとの距離を縮めていく。慌ててレイも逃げようとするけど、あんまり意味はない。

「や、こないでっ」
「じっとしてろって」

めちゃくちゃに暴れる体を力ずくで包み込んだ。ぎゅって抱きしめて、耳元で囁けば大人しくなるのは知ってたから、そうした。まんまるになった漆黒の瞳は潤んでいる。レイの甘いにおいがした。着ぶくれのせいで柔らかい体はあまり感じ取れなかったけれど十分だ。

「ね、俺に教えて?」
「やー」
「いやっていったらだめ」
「…おし」
「教えたくない、もだめ」
「しりうすきらい!」
「本当に?」

俺はレイが大好きで、レイも俺のことが大好きだ。だから嫌いなんて言葉が嘘なのも知ってる。俺がレイを嫌いになる確率がゼロパーセントだから、その逆だって同じに決まってる。

「う、うそ。…大好き」

ほら、そうだろ。恐る恐るといった様子で俺の背中を掴むのが可愛くてキスしたくなったけど、ぎゅう、てしてたら出来ない。最悪だ。キスだってしたいしハグだってしてたい。レイがちっさいのが悪いのか、いやでもそれは彼女の可愛いところのひとつだ。じゃあ俺がでかいのがいけない?そんなわけない。

「おしえてあげる」

レイの声は俺の胸に埋まってるせいですこし籠っている。胸に頬をすりよせてくれるのが嬉しくて、さらさらの髪を優しくなでた。

「ん、教えて」
「あのねえ、」

くすくす笑ってレイの体が震えるのがわかる。なんだこれ可愛いな。

「あのね、さむいひはこうやって、ぎゅってしてるとあったかいの。シリウス知ってた?」

顔をぐいと上げて、俺を見上げながら、笑った。

ちょっとまておい、知ってるよばーか、ばかばーか。余裕も何もぜんぶ吹っ飛んだ。あったかくしてたレイには悪いけど体を少し離して無理矢理口づける。レイのぷるぷるのくちびるは冷たくてでも柔らかくて、可愛い。すこし唇を離した合間に必死で息して、ぎこちなく俺の舌の動きに合わせてる。俺のコートがぎゅっと彼女に握られてシワになるのがわかった。

「も、やぁ」

可愛い声出してもやめてやらない。煽ったレイが悪い。最初は生ぬるかった口内も冷たい吐息も熱を帯びてきて、混ざって溶けていった。レイの白い息までもがいとおしくて頬を指先で撫でれば、それだけで泣いた。ああ可愛いなあ。涙もぜんぶ、舐めとる。

「…かお真っ赤」
「しりうすが悪い」
「後悔はない」
「さいあくう」

一呼吸あけて、彼女は甘えた声をだした。

「でも、好きなんだあ」

最近のレイは、本当に、可愛すぎると思う。


「ベット直行な」
「え、なんで」
「いいからいいから」
「えええ」





110204 ニコ

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