「なんて愚かな、リーマス・ジョン・ルーピン」
「誰、君は」
「ねえ、彼女、泣いていたわよ」
「知っているよ」
「彼女はあなたを愛しているわ」
「うん、知っているよ」
「あなただって、そう」
「さあ、それはどうだろう」
「分からないの?」
「いや分かってる。自分のことはよく分かってる。僕は彼女を愛してなんかいないってこと」
「哀れな人狼、あなた。愛を知らないの?」
「哀れなレディ、そのまま君に返そう。君は愛を知らない」
「冷たい目をしているのね」
「君よりはだいぶマシ」
「少しは遠慮しなさいよ。私、悲しくなってしまうわ」
「おや、その体には心が宿っているんだね」
「涙は流れないけれど」
「羨ましいなあ」
「どうして?」
「そっちの世界は楽しいだろう?苦しいことなんかないだろう?洗練された優雅な世界で、君は生きているんだ」
「苦しいことはないわ、でも、それが悲しくて、たまらなく苦しいのよ。生きてもいないの。もう私の体はずうっと昔に消えてしまった。こちらの世界を素晴らしいと思うかしら?薄っぺらな色彩と、厚くて硬い、嘘の壁。死んでいるのに死んでいない、苦しいけれど死ねない、死に方がわからない、もう死んでいる、私は生きている。とても嫌な所だわ」
「僕なら、君を殺せるよ。燃やしてしまおうか?」
「まあ、どうもありがとう」
「やっぱり止めた」
「意気地無しね」
「だって君の瞳、ぱあって光ったからさ。つまらない」
「嫌な人に出会ってしまったわ」
「残念だけど、僕は人じゃあない」
「そうだった、半分は狼、可哀想な人間、人狼、愉快な響き!」
「ああ、今夜が満月だったなら、この鋭い牙と爪で君を切り裂いてしまったのに、今すぐ」
「気にさわったなら謝るけれど。でもあなた、自分が人狼でよかったって思っているから」
「誰、君は」
「最初と同じ質問よ。リーマス・ジョン・ルーピン」
「気が変わったよ。僕は君を壊してしまおう」
「やめてちょうだいな。今は、もう少しあなたとおしゃべりしたい気分なの」
「こんなに頭にきたのは初めてだよ」
「光栄だわ!あの子の代わりに、あなたに仕返しができた!」
「君と彼女は仲良しってわけ?卑怯だなあ、女は」
「あら、あら、女を馬鹿にしたかしら?人狼が私達を見下していいと思い上がっているみたい」
「僕より汚いよ、君ら」
「醜いのはどちらかしら、ルーピン少年、あなたの心?満月の下での、本性?」
「血に餓えた獣さ。何かを壊したくてたまらない」
「獣!ふふ、あなたにぴったり!」
「なあ、彼女、僕に同情しているんだよ。信じられるかい?僕は絶望したよ。なんて可哀想なの、って、彼女は言ったんだ」
「同情、同情、生温い偽善。でもね、同情と愛は隣り合わせよ。もう一度言うわ。愚かな人狼。半分だけの男の子。彼女はあなたを心から愛しているのよ」
「わかった、分かってる。彼女は僕を愛している。だけど、ああ、もう一度言おう。レディ。僕は彼女を愛していないんだ」
「ねえあなた、……就寝の時間ね。もうお行き、ルーピン」
「また来るよ」
「いつでもどうぞ。私はここにいるから」
「動かないくせに、いや、動けないんだったね」
「最後まで憎たらしい子。おやすみなさい。神様のキスがあなたに届きますように」
「おやすみ、レディ。君がぐっすり眠れるように祈っているよ」
101031 間宮