※リドル君がヴォルデモートさんじゃありません







あなたの声しかきこえないところであいをうたってください。



両親以外の誰かに、尽くしたいと、こんなにも思ったのは、初めてのことです。無条件の愛情を抱くのは、血と肉とを分けてくださった方にだけと、思っていました。リドル君の為になら、私は、やはり世間体は気にするものですから、人様に迷惑をかけること以外なら、何だって、出来ます。私の時間なんて無くてもいい。私の、母様から、父様からいただいたこの体は、リドル君の為に存在しています。リドル君をおもい、リドル君に愛されるためだけにあります。

「重たいでしょ。ごめんね」
「ばか。軽すぎ」

私はたまらなく恥ずかしくて、リドル君を困らせていることが、お仕事で疲れているのに、手を煩わせてしまったことが、情けなくて、俯きました。けれども手足に力は入らないものですから、立つことも、まして歩くことも出来るわけがなく、しょうがなくて、リドル君に体を委ねます。リドル君が足を進めると体が揺れ、少し酔ってしまいそうでした。気持ちが悪いのです。胃の中は空っぽなのに、吐いてしまいそう。

リドル君は、今日、出張から帰ってきたばかりでした。リドル君がいない間、私はお部屋を綺麗にして、お洗濯をして、リドル君が帰ってきた時に、気持ち良く過ごせるように、それだけを考えていました。だから、ご飯を食べるのを、忘れてしまったのです。リドル君の為にごちそうを拵えて、埃ひとつないお部屋で待っていて、私の視界は白くなったり黒くなったり、くるくる回り始めました。あ。と、床に突っ伏すと、吐き気がして、頭もいたくなって、立てなくなってしまったのです。

そこへリドル君が帰ってきて、病院で点滴を打ってもらうことになりました。聖マンゴ病院まで行ったのだけれど、何か大きな事故があり人がたくさんで、受け入れてはくれませんでした。私はそれならもういいといいました。ですが、リドル君は優しいので、わざわざ、マグル界にある病院まで、連れてきてくれました。

立つこともままならない私は、リドル君におぶさっているのです。歩いて行くのは、ただでさえ気分の悪い私が、姿くらましをしたら、余計に体調を崩すだろうという、リドル君の配慮です。

リドル君の広い背中は、夏になり始め、あがってきた気温と、私をおぶって歩いているせいで、熱を持っていました。申し訳なくて、悲しくなりました。私がご飯を食べて、自分の体調管理もしていたら、今頃はお家でゆっくり過ごせていたはずなのに。涙が出てきて、リドル君のローブに、染みを作っていきます。

「ごめんね。迷惑かけてごめんね」
「どうして泣くの」
「リドル君、お仕事頑張ってきたのに、ちゃんと出来なくて、まだ、ご飯も食べれてないし、」
「十分だよ。ちょっとしか見てないけど、家の中、すごくきれいにしてくれてたんだろ?頑張ったね」

優しい、優しいリドル君。リドル君は全部、理解してくれます。勿論、単に全てを肯定するわけではなく。私の気持ちを、有りのままに、受け止めてくれるのです。思ったことを上手に言葉に出来なくても、ひとつひとつを拾ってくれて、うん、うん、と、聞いてくれます。私のたどたどしい思いを、こういうことなんだねと、まとめてしまうことも無く、そのまま、そのまま、理解してくれるのです。だから私は安心して、リドル君のそばにいます。

「頑張ったの。だけど、ご飯たべるの、わすれてて、きもちわるくなって、たてなくて、杖はテーブルの上で、誰も呼べなくて、こわかった」
「うん。怖かったね」
「り、リドル君が、かえってきてくれて、よかった、ほんとに」
「吃驚したよ。絶対玄関で出迎えてくれると思ってたのに、ただいまの返事もないし、そしたら倒れてるし」
「ごめんね」
「お前にならいくらでも迷惑かけられてもいいんだよ。ほら、病院、見えてきた」

リドル君の肩ごしに、ぽつりと明かりを灯す建物が見えました。医師がスクイブの方で、夜中でもやっていて、魔法界の人も利用するところだそうです。中に入ると、外の生温い空気とは違う、ひんやりした風が髪をすくいました。人はあまりいないようでした。大事故で怪我をした方々は全員、聖マンゴ病院にいっているようです。待合室の椅子に下ろされて、リドル君が受付をしに行っている間、私は気持ち悪さをもてあましながら、壁にかかっている時計を見ていました。ああ、本当なら、寝ているはずの時間。

「点滴ならすぐしてくれるって」
「うん。ありがとう」
「診察室まで行こう」
「うん」

今度は私の背中と膝の裏に腕を回して、リドル君は私を運んでくれます。また、重いでしょ、というと、もっとご飯食べてくれないと心配だよ、と、リドル君はわらいました。

医師の方は白髪混じりの女性で、ハキハキした声が感じよく思います。

「点滴を打って帰ったら、お粥みたいな軽いものを食べて胃を慣らしてください」
「はい」

リドル君が返事をしました。私はぽかんとリドル君を見て、お医者様がくすくす笑います。

「仲睦まじいご夫婦ね」

気恥ずかしい。私とリドル君の頬は、ぽっと赤くなりました。

「け、結婚は、してないんです」
「あらまあ、そうだったの!ごめんなさいね」





「私はね、リドル君の為に生きてるの」
「そうなの?」
「うん。リドル君に尽くすためだよ」
「じゃあ俺は、レイを幸せにするために生きてるんだね」
「えっ!」
「なんで驚くんだよ」
「だって、リドル君、わあ、びっくりした。う、うれしい」
「それはよかった」

リドル君が、私の為に、生きていてくれます。私も、リドル君の為に、生きています。それはとても素晴らしいことだと思いました。私の気持ちが、リドル君からも返ってきたようで、すごく、嬉しい。嬉しくて、気持ち悪さもだいぶ消えて、リドル君が作ってくれたお粥が美味しくて、私は涙をこぼしました。

「それは感激したほうの涙?」
「うん」
「泣くか食べるかにしたら?」
「うん、うん、でも、だめ、食べたいけど、なみだとまんない」

ぽちゃぽちゃ、お粥の中に入っていきます。塩辛くなってしまうと危惧するくらい、涙は出ます。リドル君は喉をならすように笑いました。それからティッシュを持ってきて、私の目元を拭いました。でもあんまりにも涙が止まらないので、結局、泣きながら食べ終えました。

「俺に尽くしてくれるんだよね」

リドル君は、私とお話するとき、一人称がすこしぶっきらぼうになって、俺といいます。それが気を許してくれている証のようで、私は好きでした。他の人としゃべっているとき、僕、と口にしているのを耳にすると、私はいけない子、と思いながらも、優越感をもたずにはいられないのです。

「尽くすよ。私にやれることなら、なんだってする」
「結婚しよう」

事も無げにいったので、私は聞き間違いかとおもってしまいました。ごめん、聞こえない。というと、リドル君は笑みを深くします。私の手を取って、指先にひとつ、キスをくれます。


「一生、側にいてよ」





110515


( はい、あなたと、結婚します )

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