「う、あ、し、しっ、しりうす、しりうす!」

ばくはつした。発声することすらままならない。舌がまわらない。わたしはシリウスに恋をしていて、大好きで、でも友だちで、ジェームズに相談してみたりして、そんな関係だったんだけど、爆発してしまった。もう限界だったのだ。好きで好きでしょうがなくて、リリーに話を聞いてもらうだけじゃ足りなくなって、シリウスとおしゃべりするだけでも足りなくなって、もう、もういっぱいいっぱいだった。シリウスの彼女になりたーい!というわけではなくて、彼に大好きだと伝えたくてたまらない、ふれたくてたまらないのだ。それでいて、恋人になりたいとはおもわない。随分と一方的な想いだった。

「んんー?なに?」

ああ、この笑顔が大好き。ちゃんと体ごと振り向いて、わたしと視線を合わせてくれる。近くに寄れば、ふわりと、かれのかおり。ああ、もう、

「すっ、すきで、すきで、大好きで、たまらないの!どうしたらいいかわからないの、ぐちゃぐちゃなの、もう、死にたくなるくらいに、好きになっちゃって、どうしようシリウス、わたしどうしよう!」
「おっおお?とりあえず落ち着け、な?」

落ち着け、と、わたしの肩に置かれた手。大きくて、骨ばっていて、長い指で、ずっしりしてて、きれいで、あったかくて。おちつけ、おちつけ。って、シリウスのこえ。低くて、心地好くて、とろけてしまうようで。落ち着けるわけがない。心臓がすき、すき、すき、と絶叫している。

「ちがう!ちがうんだって!シリウス!」
「ほら、息吸って、吐いて?」
「うぅ、すー、はーっ」
「ん、いいこいいこ」

シリウスの手、今度はわたしの頭の上にきた。ぽんぽんって、縛った髪の毛が乱れないようにやさしく撫でてくれる。好き、好き、大好き。ゆるやかに弧を描いたくち。やさしくほそめられたひとみ。おだやかなグレイの、まなざし。

「よし、で、どうした?」

いよいよと、わたしのかれに対するきもちは涙になって、出てきた。つるつると、頬を液体が滑る感覚、熱い目。喉が震えてあ、とか、う、とかの音しか出ない。

「わ、なくなよ」
「な、ない、て、ないっ」

溢れだしてとまらない、あついあつい塊は、わたしの想いを反映するかのよう。乱雑に拭えば目元がひりひりしてきてしまう。

「そっとふけって」

ばかだな、おまえ。そう言って、すてきなあまいかおりのするハンカチがわたしの濡れた頬に押しつけられた。言葉通りにそうっと拭かれていくけど、次々と涙はでてくる。それに、ハンカチごしとは言え、シリウスの手の体温がわたしの頬にふれているのだ。よけいにとまらない。ひ、ひ、と、しゃくりあげる。まだ、涙は溢れる。

「そんな泣くほど好きな奴?」

声がでないから、大きくうなずいた。シリウスのことだよ、と、心の中で叫ぶ。

「俺のことだろ?」

そうしたら、ちゃんと伝わったみたい。わたしはくちをぽかんと開けて、そして、池の鯉みたいに、ぱくぱくと開いたり閉じたりした。こんなに、おどろくほど、あまったるい笑みを浮かべたシリウスを、初めて見たからだ。

「な、なで、わか、っの?」
「わかるよ」

頬をなでる上質な布の感触が消えた。とおもったら、今度は全身がぬくもりにつつまれた。むせかえるほどの、かれのかおりと、耳元に聞こえるとくん、とくんと、安定した心音。背中にまわされた腕は逞しく、かたい、胸のあたたかさ。

「む、うう!」
「暴れんなって」

ふれたくてたまらない、わたしの気持ちは叶った。だけれど、あつくてたまらない。彼の胸の中におさまっても、わたしの心は静まってくれなかった。わけがわからない。本当に、どうしたらいいかわからない。どうしたら落ち着いてくれるのか、どうしたら、こんなに大きなわたしの好き、を、彼に注げるのか。

「わかった、わかったよ」
「う、うっ、うううう」

結局なきじゃくることしか出来ない。好きなの。シリウスが大好きなの!

「す、き、しり、うすが、すき」

背中をさするかれの腕。あやすように、とん、とん、とやわらかくたたかれる。そのリズムと同じに、シリウスの心臓が鼓動している。

「ほら、いき吸って、はいて」

胸から伝わる振動、直接耳に入る声。すー、深く息を吸って、ふうー、と吐く。シリウスの声に合わせて何度か繰り返す。

「おちついた?」
「うん、おちついた」

わたしの背中にあった腕はまた、わたしの肩に戻ってきた。鼻と鼻がくっつきそうなぐらいにちかい顔。近すぎて、ぼやける。

「俺もね、だいすき」

だめだ。やっぱりばくはつしちゃいそう。



100912 ニコ


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