(あ、だめだ。ころされる)

わたくしはわたくしの未来を直感的に悟り、絶望し、しかし不思議と恐れを感じないでいた。それはわたくしの胸の中の確固たる決意のせいかもしれない。わたくしの目の前にいるのは確かに、世間でダークロードと称されるヴォルデモート卿そのひとで、うつくしい御尊顔には青筋、そして体は怒りからか、わなわなと震えている。我が君は白く長い指でどこからともなく杖を取りだし、そしてわたくしの胸に向けた。しかしわたくしは、やらなければいけないのだ。成し遂げなくてはいけないのだ。我が君のためにも、わたくしのためにも。

「アバダケ

麗しき、その死の呪文。





事件は30分前に遡るのである。いつものように我が君のお世話係を淡々とこなしていたわたくしは、お風呂上がりの我が君をみて、唐突に気づいてしまったのだ。

こっこのひと裸にローブオンリーだ!と。

なぜ気づいたかと言うと、ローブの上から浮き上がる我が君のおしりの線が明らかに、…ノーパンだったから。なのである。なきそうだ。我が君の健康係(あ、係が変わってしまった)を勤めているわたくしとしても人としても我が君の部下としても他のデスイーターたちのためにも、その衝撃の事実を見過ごすわけにいかなかった。

「我が君、ここに真っ黒の、洗い立ての、綿百パーセント、男性用のシャツとトランクスがあります」
「何なんだ急に」
「大変恐縮ではございますがわたくしが魔法をかけさせていただいて、肌触りは最高のものとなっております。」
「…おまえは、男性用の下着を着る趣味でもあるのか。おれさまは知りたくなかったぞ」
「ちがいます」
「じゃあなんだ」
「我が君に着ていただきたいのです」

我が君の体は強張った。何故バレたし…!と顔に動揺が浮かんでいる。きり、と仕事(マグル狩り)をこなしていた主人のこんな姿を見るのはわたくしにとってもちろん初めてのことで、胸が痛んだ。しかし我が君、わたくしはやらねばならないのです。

「何故バレたし…!」

なんとあわれな主人か!激しく顔を震わせながら我が君はあわあわと腕を不可思議に動かし始めた。

「おしりの線がノーパンなのです、我が君」
「み、見てわかるものなのか」
「わたくしは今日初めて気づきましたが」
「…おれさまは絶対パンツはかないからな!」
「何故です!!」
「あせもになるんだ!!!」

そしてわたくしと我が君の攻防は始まった。パンツをはくか否か。わたくしがいくら肌触りも通気性も魔法で十分にしてあると言っても我が君は首を縦に振ってくださらない。余程、その汗疹になった経験は壮絶だったらしい。詳しく聞いてみれば、当時我が君のお世話係という役職はなく、誰にも相談できず、一人で、ひとりきりで苦しんだのだ、と、我が君は瞳に涙を溜めながら話した。

ああ、いつからこの方は下着を身につけていなかったのだろうか。だれも信頼できず、よもやパンツにまで裏切られ、可哀想な主人。同情する気持ちがわたくしの胸を満たす。それと同時に、我が君がわたくしに話してくださったことに喜びを感じた。椅子に座り項垂れてしまった我が君の冷たい両手を恐れ多くも、ふわり、わたくしのそれで包み込む。

「我が君…、よく言ってくださいました。これからはわたくしがおります、側におります。さあ、パンツをはいてください」
「いやだ!」
「お願いです、はいてください」
「もう、あんな辛い経験はいやなんだ…」
「我が君…!」

神は聡明でうつくしく、完璧な主人に辛き試練をお与えになったのだ!嗚呼、何と言う悲劇か!そして時間は無情にも、刻一刻と迫っていた。今日はデスイーターの会合があるのだ。すくり、立ち上がり、跪くわたくしを一喝した後我が君は冷淡に言い放った。

「……会議の時間だ」

「おれさまは行く。」
「…こんなおれさまが嫌なら、おまえは」

好きにするといい。

わたくしを射抜く、その赤い、燃え盛る瞳よ。しかし我が君、あなたはノーパンなのです。

わたくしはもう、手段を選ばない。

己の杖を握りしめ、愛する主人へ呪文を放つ。


ずるん


「――っ!!?」

我が君の声にならない悲鳴。わたくしの元へと飛んできた我が君の漆黒のローブをすぐに消失呪文で消し、わたくしは全裸の主人と対峙した。主人よ、これであなたはパンツをはくしかないのです。

そして、冒頭へと繋がるのである。





「我が君、パンツを、はいてください…」

緑がわたくしの視界を満たした。





100704 ニコ
つづきます。


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