朝、誰かに肩をゆさぶられて起きたら、隣でシリウスが泣いていた。わたしは彼が泣くのを見るなんてもちろん初めてだったし、彼が涙を流すような生き物だとは思ってもみなかったから、すごくあわてた。どうしたの?って聞いてもただただ泣いて、しまいにはわたしの胸に顔をうずめて嗚咽をもらしはじめるから、わたしは彼の背中を、小さい子をあやすみたいに、ぽんぽんたたいた。(わたしを起こしたのはシリウスじゃなかった。一体誰だったんだろう?)

その日のシリウスは一日中ぼうっとしていた。ジェームズたちにも心配されて、最後の授業ではマクゴナガル先生にまで医務室に行ったらどうかとすすめられていた。「レイ、一緒にきて」え、ええ?まだクッションをウサギに変える作業を続けていたわたしの腕をとって、教室の真ん中を闊歩。おんなのこたちの視線が痛かった。シリウスの足が向かった先は当たり前に医務室なんかじゃない。(いやらしくからめられた指に体があつくなった。)

「母親と、弟のゆめを見たんだ」セックスしたあとわたしが眠りに落ちる寸前に聞こえたシリウスの声は脳内にじいんと浸透した。ああ泣いてるんだななんて卑怯なひとなんだろう抱きしめて慰めることをさえさせてくれないなんてわたしがこの微睡みに逆らえないのを知っているくせに!夢の中で、シリウスとわたしはセックスをしていた。わたしはとても興奮していて、何度も何度も彼を求めていた。(目が覚めたらわたしの隣でシリウスは泣いていた。)

はらはらと泣く。涙の雫は宝石のよう。ひとつひとつ拾い集めて、丁寧に磨いて、糸に通しペンダントにしたなら、それは世界中のどんなアクセサリーよりも価値のあるものになるんだろうな。ねえ、どうして泣いているの?(大事にしていたものがないんだ。どうしてだろう?シリウスはそう言って、涙で濡れた顔、魅力的にわらった。)

家族のことが、大好きだったんだね。シリウスの手を取りながら言うと、彼は眉をひそめて不機嫌そうに呟いた。大事にはしていたけど、好きとはちがうんだ。ふうん、そういうものなのかな?わたしにはよくわかんないや。「レイにはわからなくていいんだ」「そんなのフェアじゃないわ」おれだけを見ていてくれれば、それだけでいいんだよ。(そうしてまた、セックスをした。わたしにとって三回目のそれは一番きもちのいいものだった。)

シリウスはよく家族の夢を見るのだとおもう。そしてよくひとりで泣いているのだとおもう。それは誰かがわたしを起こしてくれなければ一生気づけなかったことであって、誰かにわたしは心から感謝した。その話をしたらシリウスは怪談は嫌いだ、って口をとんがらせた。おばけじゃないとおもうよ、根拠はないけど。(きっと世界中の誰よりもシリウスを大切に大切にしている、おかあさん)

次の日はすべての授業をエスケープした。裸のまま布団にくるまって、よりそいながら家族の話を一緒にした。目があったらキスをして、微笑みあって、一日中。夜になって談話室に戻ったら彼の友だちとリリーが待っててくれていた。「ばかっ!一日中何してたのよ!」「ごめんっリリー!」リリーに叩かれてもわたしはしあわせだった。(彼も素敵な笑顔をみせていた。)

シリウスは家族に手紙を書いたらしい。返事はないけどこれでいいんだ、って言ったから、わたしはわらった。シリウスが泣いていないなら、わたしもそれでいい。

「ねえレイ」
「なあに?」
「キスして」
「うん」








100503 ニコ

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