『わたしね、レギュラスと付き合うことにしたの』
心臓がとまるかとおもった。いや、むしろとまってしまえばよかったのかもしれない。(レイが普通に話してくれてる笑ってくれてるひゃっほうなんて思ってたから余計にショックは大きかった、そうか、そのへんも計算済みか!)レイをあんな笑顔にさせてたのは俺じゃなくてレギュラスなんだ。あれ、つきあい始めたころのレイの笑顔が思い出せない。あの頃は確かに俺に向かって笑いかけてくれてたよな。
軽やかな足どりで談話室を出ていくレイの揺れるさらさらであろう黒髪に噛みつきたくなった。しないけど。(髪の毛なんて食べてもうまくないしな、え、そういうことじゃない?)やけに上機嫌なエバンズにジェームズがああ機嫌がいい君はいつもより美しいよ女神だよなんぞと言っている。傷心の親友を慰めるとかしないのかお前は。(レイは、レイは天使だ!)そう思った。俺は変態なんかじゃない。
談話室の開いている窓から冷たい風が入ってきた。
そういえばレイはいつも俺のうしろをひょこひょこついてきたっけ。そうだ、つきあい始めたころ。授業サボろうぜってレイに言ったらあいつは本当に嬉しそうに笑ったんだ。湖のほとりで二人でぼーっと過ごして、俺はなんにもしゃべらないのにレイはにこにこ笑っていて。その笑顔が日の光にきらきら反射して眩しくて目を細めた。もうこいつと会うのはやめようって思った。笑顔が、眩しくて、痛かったんだ。
散々女遊びしてきた俺が、笑顔が眩しいなんて、笑えない。
『すき、だよ、シリウス』
だからその笑顔を一瞬だけ歪めて言ったレイに、生返事をした。疎ましかったわけじゃない、ただ、あいつの真っ直ぐさが痛くて、俺はなにやってんだろ、って、なんか、ぐちゃぐちゃした気持ちになった。
あいつが俺の名前を呼んで、俺があいつを抱きしめて、『あったかいね』『そうだな』なんて会話、したのはいつだっけ。
「シリウス、君は早く気づくべきだったんだよ」
いつの間にか談話室には俺とジェームズの二人だけになっていた。珍しく大真面目なハシバミ色を見ていることができなくてうつむいた。
「気づくって、なに、に」
ジェームズの返事を聞くまえに、談話室を出た。
あの湖のほとりに行きたい。
いつもそうなんだ
「レギュ、だいすき」
ああ、くるんじゃなかった。
(レギュラスに抱きしめられながら)(泣きそうな顔のレイをみるなんて)