わたしだってびっくりした。図書館で本を取ろうと手を伸ばしたら、その手をだれかに掴まれてえ、と思ったときにはレギュラスの眼差しに射抜かれていたんだから。
どきどきした。
彼がシリウスに似てたからなんかじゃない。彼の瞳は本当に真剣で誠実なものだった。シリウスが一度もわたしに見せたことのない、目の奥にちらつく光。ああこれが『本気』ということか。
そんなレギュラスに交際を申し込まれて断る理由なんて見つからなかった。
「れ、レギュラス!おまたせ!」
湖のほとりの木陰で待ち合わせ。はははははははじめてのデート、的な!(まあデートってゆうか二人きりでおしゃべりしようかみたいな感じなんだけどね)緊張する!
わたしが木に寄りかかって本を読んでいるレギュラスに声をかけると、彼はわたしのほうをむいてふわりと微笑んだ。
(どきん)
その表情が、わたしの記憶の隅に残るシリウスのそれと、重なった。
「…先輩?」
「あ、ううん!なんでもない!」
かぶりを振って頭から奴の記憶を追い出す。湖から冷たい風が吹き抜けて、ほてっていたわたしの頬をなでた。そういえばあいつとここで授業サボったりしたこともあったな。一回きりだったけど。あのときも気持ちのいい風が吹いていたとおもう。
「…正直、先輩が僕を選ぶなんて思ってなかったんです」
ぽつり、レギュラスの呟いた言葉にびくりと意識がとびはねた。先輩は兄にべたぼれでしたから。こうつづけるレギュラスに、あんなやつ人間のクズだよほんと、レギュラスは似なくてよかったね!と返す。
瞬間、視界が真っ暗に。
「れれれれれレギュ、ラス」
「すきです」
ぎゅうと強い力でわたしの体に手を回すレギュラス。すがるようにわたしの耳元で囁かれた言葉に、わたしも彼の体に腕をまわした。
また、ひんやりとした風がふいた。
『シリウスー!』
わたしが駆け寄ると、シリウスは微笑んだ。そしてなにも言わずにわたしをだきしめてくれて、伝わる体温が幸せで。いつから彼は、わたしのことを疎ましいと感じるようになったんだろう。
最後だったデートの場所は、湖のほとりだった。そのときも、今みたいな風がふいてた。
『すき、だよ、シリウス』
『…ああ』
うんざりしたような顔で吐き出されたその返事が、もうお前には興味がないと言われてるってわかってたのに。なんでもっと早く、別れをきりだせなかったんだろう。
「レギュ、だいすき」
ずきん、とどこかが痛いと悲鳴をあげた。
そんなきがしただけ
(わたし)(しあわせだよ)