『レイ先輩』

『僕と、つきあってくれませんか?』

脳裏に浮かぶのは黒髪と灰色の瞳。端整な顔立ち。どっかの糞犬に似ているけど、彼の誠実そうな雰囲気が犬とは違うと言っていた。

『レイ!』

『すきだ!』

ちがう。あんな発情期野郎とは、ちがう。


おれをおいてさきにゆけ


「レイ?そんなにおしゃれして、化粧までして、今日は何かあるの?」

それにさっきからにやけてるわよ。とリリーが言った。鏡を見ると確かにわたしはにやけていた。

「えへへ、聞きたいリリー?」

「もちろん!あ、目、瞑って」

リリーに言われるままに目を瞑る。ビューラーでまつげを挟まれる感覚がした。いつもはリリーに教えてもらいながら自分で化粧しているけれど、今日は失敗なんてできないからやってもらっているのだ。

「実はねー!」

かくかくじかじか

「……え?」

「っつうあ!いたいいたいいたいリリーまつげはげちゃう!」

わたしの言葉にそうとう驚いたのだろうか、リリーはビューラーでがっちりわたしのまつげを挟んだまま思いっきり引っ張った。


「あ、う、い、レイ!」

準備も終わって久しぶりに談話室でリリーとしゃべっていると(いつもは談話室に行くとシリウスがうるさいから近づかない)、すぐにシリウスがやってきた。普段なら跳び蹴りかアッパーで沈めるところだけれど、今のわたしは気分がいい。

「なあに?シリウス」

いや、ちがう。シリウスをもちあげてもちあげてもちあげて、そこから突き落としたいから、こんなに愛想よくしてるんだ。

「か、かわいい、な!」

つきあい始めてから一度も言ってくれなかったくせに。今になってこの態度。結局シリウスはわたしのことをあいしてくれてたときなんてなかったんだね。わたしはあんなにすきだったのに。もう遅いよ。

「ありがとう、あ、わたしもう約束の時間だから行くね」

「約束って、なんだよ?」

ちょっとむっとした顔をしてわたしに一歩近づくシリウス。嫉妬なんて、ほんと、今さらだよね。きっとわたしと出会ったきっかけも付き合うことになったきっかけも覚えてないくせに。なのにシリウスは今のわたしに夢中なんだ、なんだよそれ、結局いちばん悲しいのはわたしじゃないか。もうきえてよ、すきなだけ女遊びしてよ、もうわたしはあなたに嫉妬もしないし泣くこともないし不安で眠れなくなる夜もこないんだから。

シリウスに近づいてその耳元でささやく。きっと、殴られたときよりも、彼には痛いはず。


「わたしね、レギュラスとつきあうことにしたの」


だから、今度こそ、さよなら

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