「あなた本当にブラックと別れたのよね?」

「あー、リンリンおはゆー」

「わたしはリリーよ。レイ!起きなさい!」

「ひゃい!確かに昨日はミスターブラックとレイ・アイカワの破局記念日ですリリー様!」

昨日は、ホグズミードから帰ってきたリリーとジェームズとリーマスとピーターに、シリウス…じゃないブラックフルボッコ伝説をたくさん聞かせて心地よく眠りについた。(そりゃあもう気分爽快ですとも!)

朝からリリーの鉄拳が落ちてきそうなので、無理矢理頭を覚醒させて質問に答える。そして彼女から返ってきたのは、訝しげな表情と、わたしがパジャマのまま談話室におりるのに十分な言葉。

「でもブラックは、俺とレイは別れてないって朝から談話室でわめいてたわよ」



「で、レイにぼこぼこに殴られていままで気絶してたと」

「まあ散々浮気してきたんだから当然の報いだよね」

「レイ、シリウスと別れたって言って、す、すごい嬉しそうにしてたよ」

ホグズミードから帰ってきた三人はもうレイから話を聞いたらしく俺をたたき起こした。上からジェームズ、リーマス、ピーターの順で、目が覚めたばかりの俺にいろいろ言うもんだから、頭が痛くなった。

「それにしてもレイがねえ…、彼女、あんな性格だっけ?」

俺だって驚いたんだ!万年発情期とか、レイがあんな粗雑な言葉を使うなんて。

「…俺、さ」


だけど、決めたんだ。


「レイとぜってえ別れねえから…!」

俺が浮気しても約束を破っても笑ってるレイより、感情むきだしで、俺のこと殴ってきたレイのほうがすきだ!!てゆーかむしろそれで初めて惚れた!だから別れねえ!

(…ジェームズ。シリウスってMなのかな)(僕なんか泣きたくなってきたよあははははは)(レイはもうシリウスと、わ、わわ別れてるつもりだよ、ねえ?)

「待ってろレイ!」

「ちょ、シリウス女子寮に乗り込むのだけはやめて!」


「ブラックてめえ!」

談話室まで階段を駆け降りると、そこには気が抜けるほどの笑顔のブラック。(今まで一度たりともそんな笑顔をわたしに見せてくれたことなかった)

「レイ!パジャマ姿もかわいいな!」

「はあっ!?」

ブラックが、ブラックが初めてわたしのこと褒めた!付き合ってるときでさえかわいいの一言もなにもなかったのに!ブラックがわたしを褒めたあああああ!

「リリリリリリリーこのひとおかしいよたすけて」


豹変したパットフッドに怯えながらレイがうしろにいるリリー(ああ今日も綺麗だな!)に助けを求めた。だけどその前にレイにシリウスが詰め寄った。

「レイ!俺たち別れてなんかないよな!?」

「は?別れてるに決まってんじゃん昨日が破局記念日じゃど阿呆!しかも名前で呼ぶな発情期犬!」

ああ、シリウスの言ってたことは本当だったんだ。『花も恥じらう純情乙女レイ』(レイのファンクラブ命名)のイメージが、僕の中でがらがらと崩れていった。(昨日嬉々として僕らに報告してきたときは、まだはにかんだような可愛い笑顔でこんな言葉遣いでもなかったんだ!)横にいるリーマスとピーターに目をやると、二人も相当ショックを受けているようだった。彼女と親友のリリーでさえ、目を見開いている。(そんな顔も美しいよリリー!)

「でも昨日おまえは俺に別れようなんて言ってないぞ、一言もな!」

「ぬおおおう、じゃあ今ゆってやるし!別れ「いやだね!」はあああああ!?」

「レイ!すきだ!」

「(どっきん!うわなにときめいてんだわたし!てゆかなんで今さらす、すきとか…!)わたしはもうあんたなんかに一欠片の愛情も持ち合わせてないです残念でしたあ!」

「おおお俺はとにかくしんでも別れねえからな!」

「じゃあしねよ!」


「…ジェームズ。先に大広間に行こう」

「…うん」

僕は、目から出る汁を押さえながら大広間へ向かった。(ああ哀れなシリウス)(そしてさよなら純情だったレイ)


ちょっとはおちこもうよ


(レイ!待てよレイ!)(そうしてブラックはわたしにつきまとうようになったのです)(誰かたすけて)

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