廊下でレギュラスとすれ違った。無駄に緊張したけどなにも言われなかった。あのあとジェームズに聞いたら、どうやらレギュラスとレイは別れたらしい。レギュラスのほうから。

「兄さん!」

「ななななななに!?」

「死ね!」

「え、ちょ、普通に傷つくんですけど!レギュ!?」

すれ違ったと思ったレギュラスに呼ばれて振り向けば死ねと言われた。レギュは俺の制止の言葉なんて聞かずにどんどん廊下を進んでいく。

「死ね!」

うわ、また言われた!

「い、生きる!」

とりあえずそう叫ぶと、レギュラスは笑って(距離が離れていたから確かではないけれど)廊下の角を曲がった。

くそ、あいつかわいいな。(え?いやいや弟としてだよ!)


「…レイ」

「うわ、犬だ」

「……」

中庭のベンチで本を読んでいたレイに声をかけた。あからさまに俺が嫌だという態度はとられるけど、前に比べたらましになったと思う。逃げられなくなったし、殴ったり蹴られたりすることもなくなった。

「あのさ、」

「なに?早くしてよ」

本に視線を戻したレイの耳は赤かった。あああバレてるいやそうだよな普通わかるよな!やばい手汗が手汗が!

びゅう、冷たい風がふく。

いや、俺はやる!

ぐ、と手を強く握って、声が震えないように、言葉を紡いだ。




「俺と、もう一回つきあって」




なにを言われるかなんてわかっていた。だけど正直、わたしの気持ちはまだ決まってない。シリウスがすきか。すき。だけど、レギュラスがすきかと聞かれたら、わたしは必ずすきと答える。レギュラスとの恋はひどく穏やかで、別れるときもそうだった。

『先輩、』

『うん』

『別れましょう』

『…うん』

悲しくはなかった。だけど、あの日向ぼっこみたいな、優しい気持ちも愛情。シリウスに抱く激しい気持ちも、確かに愛情だから。

「…もうすこし、」

もう少し、待っててくれる?

あなたへの気持ちがひとつになるまで。


図書室の奥の席。いつもレギュラスとしゃべっていたところ。少し緊張しながらそこを覗くと、レギュは以前と同じように座っていた。

「…レギュ?」

「先輩、五分遅刻です。」

よかった、言葉もおんなじだ。

わたしもレギュのむかいの椅子に座って、ゆっくりしゃべりだす。

「今ね、シリウスに告白された」

「でしょうね」

「うん」

レギュラスは本を読みながら淡々と、だけどしっかり返事をしてくれた。

「さっき廊下で兄とすれ違いました」

「え、まじか」

「死ね、と言っておきました」

ぱたん、レギュは本を閉じてにっこりと笑った。(どき)

「ねえレギュ、」

「なんですか?」

「わたしね、レギュがすき」

わたしが次の言葉を言うまで少し間はあったけれど、レギュラスの表情は変わらなかった。

「でもね、シリウスもすき」

わたしはなんて残酷なことをしてるんだろう。まだ彼はわたしのことがすきなのに、こんなことを言って。しかも彼に背中を押してほしいと思ってる。




「…例えば、」




僕が話しだすと、先輩の顔はきょとんとしたものになった。きっと、きっと先輩は僕に背中を押してほしいと思ってるんだろう、だけど同時に僕に罪悪感を抱いているにちがいない。顔にそう書いてある。

本当にわかりやすいひとだな。

そう思うとなぜかひどく穏やかな気持ちになった。

「例えば、」

例えば兄と僕が死にそうになっていて、どちらかしか助けられないとき、

「先輩は迷わず僕を助けるでしょう?」

「うん」

「だけど、兄が死んだあと、先輩は、レイは迷わず兄のあとを追うんですよ」

長い間があいて、レイはゆっくりと顔をほころばせた。極上の笑顔。先輩が僕にだけみせるもの。

「ありがとうレギュラス」

「どういたしまして」

「すきだよ」

「僕もです」

愛の種類がちがうというだけ。




ならわたしは三百年生きたあと貴女のあとを追うわ




(レギュ、一週間後の今日にね)(はい、わかりました)






あと一話でおわりですよい!

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