ああどうしよう、レギュの、顔、ちかづいてくる。

ぎゅう、って、レギュラスと抱きしめあってるのは心地よかった。レギュラスはわたしを好きだと言ってくれたし、行動や態度からいつも好きだって雰囲気が伝わってきて。暖かかった。

レギュラスの綺麗な顔がちかづいてきても嫌だとは思わなかった。だけど、嬉しい、も、胸のときめきも、感じなくて。

あれ、なんでだろう。

なんて思ったときには唇まであと1センチ。

シリウスが止めに入って、レギュが離れていって、なんだかかあっと頭に血がのぼった。

シリウスに対する怒りからなのか、わたし自身の曖昧な気持ちに対する恥ずかしさからなのかはわからないけど、とにかくなにかの感情がふつふつとせりあがってきて、気がつくとシリウスの腕を力任せに掴んで走り出していた。

「レイ!」

レギュラスがわたしの名前を呼ぶのが聞こえた気がした。


わたしはシリウスをひきずって校内に戻った。走っているうちになんだかもやもやぐちゃぐちゃした感じも落ち着いてきて、怒りだけがわたしの胸の中の大半を占めていた。

人気のない廊下までくるのと同時に、その怒りをぶつける。

「もう最低!いつまでも邪魔すんなどあほ!」

「でも「ほんと何考えてんの!?もう別れたじゃんわたしたち!あんたなんて他の女とラブラブいちゃいちゃしてれば!?」

シリウスが反論する前に次々と言葉をぶつける。

なんで今さら、って気持ちも大きい。もう別れたのに。あなたが浮気したから、あなたがわたしのことキライになったから別れたのに。なんでなんでなんでどうして。

わたしもうあなたのことなんて忘れたんだよ。つきあってたときの短い思い出も、片想いだったときの酸っぱい気持ちも。ぜんぶ、捨てたんだよ。

これ以上わたしを乱さないでよ。

『だいすき』に、溢れてきそうな想いと、涙と、胸の痛みに、蓋をして、閉じ込めて。

なのに。

なんで。


――いまさら好きなんて言うの?


「好きな女が他の奴とキスしそうになってて止めない男なんているかよ!」

「なにそれ、ただの独占欲?元カノが他の男とキスするのさえ気にくわないってこと?」

「な、ちげーよ!そんなのレイだからに決まってるだろ!」

「ふざけないでよ。やめてよ、そんなの、ちがう!シリウスは、シリウスはわたしのことすきなんかじゃないでしょう!?」

「好きだよ!」

「ちがう!!」


あなたの、シリウスの、『すき』なんて、わたし、しらないよ。


「ばっかみたい!散々浮気しといてさ、それなのに、それなのにわたしから別れようってゆわせて、今さらすきって、馬、鹿、じゃん、ふ、そんなの、さあ…、ばか、だよ…」

もうわからない。わかんないわかんないわかんない。

シリウスがわたしに抱いてる気持ちも、わたしがシリウスに、レギュラスに抱いてる気持ちも、わかんないよ。

「レイ、」

ぽろぽろ涙がでてきて、声が詰まって、なにも言えなくなった。シリウスが心配そうにわたしの名前を呼ぶ。

(どき)

ああなんで、わたしの心。それだけで反応するの?

シリウスに腕を引っ張られて、涙で滲む視界の中で彼の体温を感じる。少し熱いそれに、わたしの心臓は相変わらず早い鼓動をうつ。


「ふ…く、…っ」

俺の腕の中で嗚咽を漏らし続けるレイ。

好きだよ。好きなんだ。ずっと前、から。華麗に微笑むレイも、快活そうに笑うレイも、ぜんぶ。

ほんとに俺は馬鹿だ。なんでもっとはやく気づかなかったんだろう。そうしたら、レイをこんなにも苦しめることもなかったのに。

「レイ、ごめん。すきだ」

ぎゅ、と腕の力を強めると、俺の胸のあたりにあったレイの腕が背中にまわった。ああ、こんなにも愛しいと、感じていたのに。

まだ俺にも望みはあると、期待してもいいのだろうか。


かなしいせつないくるしい





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