シリウスが壊れた。
そりゃあもう盛大に、壊れた。
発情期なのかもしれない。いや、かもしれないじゃなくて絶対そうだ。ハアハアと息をつきながらそれでもにやにやしているアイツを発情期と呼ばずになんと呼ぼう。うん、変態、でも可です。さあ女子の皆さん逃げる準備をしてくださいな!朝から発情期変態のシリウスくん(犬にもなれますお買い得!)今ならすれ違うだけで妊娠しますよーう!(ああ逆にたくさんの女子が押し寄せてくるかもしれない)
「待てって!」
「無理!」
無理無理絶対無理。今止まったらわたしは確実に、確実に、
確実に、(恋してしまう、とか?いやいややめてくれ!よ、世の中には順番と言うものがあってだね!)
朝。談話室に下りていつものように挨拶を交わした後、異変は起こったのである!
わたしの顔を認識するなりぽ、と絵みたいに頬を染め、にやにやしながら腕を広げじりじりと近づいてくるシリウス。その異様な雰囲気に後退すれば、がばっ。抱きしめられそうになった。危ない!あと一歩後ろに下がっていなかったら捕まってた。
「やば、なんか、可愛いんですけど」
「は?え?なに?誰が?」
「お前が」
「オマエガさんなんていたっけ?」
「うわあ何だろこれ、いきなりちょうすきなんですけど!」
「へ、へえー、うん、がんばれ」
「キスしてもいい?」
「……アディオス!」
談話室内を早歩きで逃げ回り、それでも追いかけてくるシリウスはしまいにはキスしようなんて言い出した。完璧に、発情している。
そんなこんなでわたしと発情犬の攻防は談話室の中に留まらず、鬼ごっこをするには最適な、広い学校まで繰り出したのである。
「こーなーいーでー!」
「すきなんだってー!」
全力疾走しながらばびゅんばびゅん廊下教室大広間。すれ違う生徒たちの目はまん丸だった。(一瞬見ただけでもわかるぐらいに、まん丸。)すきだー!とかあいしてるー!とか叫びながら速度を落とすことなく追いかけてくるシリウス。もういい加減にしてほしい。朝食は愚か一時間目の授業も出られなさそうだ。え?なに?今昼休み?…。どうりでお腹がペコペコなわけだ。ていうかなんなの。先生でもフィルチでもリリーでも、誰か止めてよ!
「アクシオ!」
「ぐふっ」
内臓が、ひっくり返るかと思った。(人にアクシオを使うだなんて反則だ!)背中に感じる体温に、ため息。
「やっと捕まえた」
「うっわーひとりであははうふふワールド突入してますかー?」
「あいしてる」
「うふふーあははー」
「こっち向けよ。キスしよ?」
「ジョセフィーヌー三途の川が見えるよーわたしはもう眠いのだー」
ちくしょうこの腕へし折ってやる!満身の力を込めてお腹に回されている腕をぐぐ、とおしやった。ごきんって鳴ったけど、発情犬は痛覚がないようにできているらしい。それどころか力は強くなる一方で、うええ、吐く吐く吐く…!
「き、キスならその辺の女の子としてくればいいんじゃないの?」
「やだ、お前がいい。」
「もう本当どうしちゃったのなに急に発情してんのわけわかんないよわたし」
昨日まで普通の友達だったのだ。悪戯仕掛人の仲間。悪友。親友。ふざけているようにしか思えない。もしくはどっきりか。
「こっち向けって」
「ちょ、痛、うわ、近…!」
ぐるんと体を回された。目の前に、本当に目の前に、ぼやけて見えるくらい近くに、シリウスの顔。近い近いと胸を押してもわたしの背骨が痛くなるだけだった。
「すきだよ」
「え、近いよシリウス」
「うんわかってる」
「じゃあ離れよっか」
「キスしよって、何回言えばわかるんだよ」
「いや、冗談でしょ?」
「冗談ですると思うか?」
片腕だけで抱きしめられて、空いたほうの腕で顎を持ち上げられて、近い近い近い、と思う間も無く。
「…ま、まじか」
「うん、まじ」
明日からは友達でいられないな。ああもう!どきどきする!(順序違う気もするけど、まあ、いっか)(キスから始まる恋、も、なかなかロマンチックだ)
2010/02/16 ニコ
アンケート結果よりシリウスで、近づかないで下さい、の、ゆめ!