「ハグしてもいいですか?」

図書室からの帰り道。つきまとってきた何人かの女を適当に言い含め先に寮へと帰らせたリドルは、一人悠々と廊下を歩いていた。今日は特別しつこくつきまとってきたからそれを振りほどけたことで上機嫌になるのは否めない。優等生も疲れるものだ。下心をまったく隠せていない、鼻がきかなくなるほど香水の匂いがする女達が飽きもせず寄ってくる。

突如目の前に現れた少女に笑みが崩れ機嫌が急降下するのをリドルは感じた。またか。今度はどう言い訳をして逃れよう。自分よりひとつかふたつ年下だと思われる彼女は赤のネクタイをしていた。随分前から愚鈍の塊、と烙印を押したその寮の色。さてどうしたものか。崩れた笑顔を元に戻しながらリドルは考えた。少女を抱きしめることで事が済めばいいのだが。告白をされそれを断るとしつこくキスしてくれと迫られ、仕方なくしてやれば次の日その女が自分の恋人になっていた経験のあるリドルは躊躇した。

「ハグしてもいいですか?」

また、少女が口を開いた。

「君は、誰かな?グリフィンドールの何年生?」

当たり障りのない常識に溢れた返答をすることに決めたリドルは、柔和に映るであろう笑顔を浮かべながら柔和に聞こえるであろう声で目の前の少女に言葉を返した。途端少女は眉をひそめ苦々しげな表情になった。次に少女から出たセリフに、リドルは作り出した笑みが凍るのを感じた。

「その気持ち悪い笑顔とか、いらないんです。わたし、あなたの外見だけが好きなので」

さすがは愚鈍の塊のグリフィンドール。まるでこちらが悪いかのように不機嫌な声を出す少女に、リドルはいやらしく頬がつり上がった。自分の嘘っぱちの笑顔がばれていたことに少し驚きはしたものの、後者のセリフがリドルのプライドにさわったのだ。一生口を聞けなくしてやろうか。幸い人通りのない廊下を選んでいたので少女に多少の脅しをかけても平気だ。自分の外見だけが好きだって?確かにこの外見がまわりには良く見えるのを知っていたが、優等生ぶりは人前での性格にも反映してきたはずだ。無性に苛ついた。

「あ、でも今の顔は、素敵」

赤のネクタイだけに目をとられていたリドルは、少女の笑みに目を見開いた。ぷっくりと赤い唇が歯をみせず弧を描いて、長い睫毛に縁取られ細められた漆黒の瞳が、妖艶さと狡猾さを濃厚に醸し出していた。

「君は、本当にグリフィンドール?」
「ええ、そうですよ」

一歩一歩近づいてくる少女にリドルは杖をつきつけるのを忘れた。ふわり、少しだけ甘いチョコレートの香りがしたかと思うと、自分より頭ひとつ分小さい少女に抱きしめられていた。自分の背中にまわされた細い腕と予想していた以上に柔らかく熱い体に肌があわだった。

「顔も髪も腕も指も足も背中もぜんぶ好き。だけどあなた一人になることがないから、タイミングがはかりにくかったんです」
「…君の名前は?」
「さあ?知らなくてもいいんじゃないんですか?わたしもあなたの名前知らないですし」

クスクスと軽やかに笑う少女の体の振動が伝わる。リドルも少女の体に腕をまわしきつくきつく抱きしめた。少女は満足したようにほう、と息をついた。ただ単純に、興味が湧いたのだ。今まで接したどの人間のタイプにも当てはまらない。

「わたしに興味が湧いたでしょう?」

体を離しまた妖艶に微笑む少女に、リドルは自然と口角が上がるのがわかった。



2010/02/14 ニコ

アンケートの結果よりリドルくんにハグ!とってもわけのわからない雰囲気ですがあっはっはごめんなさい(…)あー、なんか、腰なでさせろの卿のやつとつながってそう←

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