同じ寮、ひとつ下の後輩は、性別上は男性に区分されているがとてもかわいい、とわたしは思うのである。朝、少しだけ癖がついてしまった髪をさりげなく気にしていたり、ピーマンが嫌いだったり、嫌なことがあるとひたすら羊皮紙を塗りつぶしていたり、誰かに告白されると慎重に言葉を選んで相手を傷つけないようにしたり、プレイボーイ気取りのどこぞのへたれの奴と兄弟だなんて信じられない。

「行ってきます」
「どうして?」
「ブラック家の為、我が君の為、です」
「じゃあ、わたしと駆け落ちしようよ」
「先輩、わかって、ください」

ぎゅう、と珍しくわたしを抱きしめるレギュラスの体は震えていた。ああもう、ぜんぶあの馬鹿な兄貴のせいだ。アイツがちゃんと家を継いでいればレギュラスは死喰人なんて妙な宗教(わたしは闇の脅威、だとかそんなものは不気味な宗教うんぬんとしか思えない)に入らずに済んだのに。かわいいかわいいレギュラスに、こんな、大人びた顔と眼差しをつくらせているのはアイツだ。アイツのせいだ。レギュラスはまだ無邪気に笑っていていいはず。わたしだって、無邪気に、何も考えず、レギュラスと過ごす時間を笑って楽しんでいればいいはずなのに。闇だとか光だとか、そんなもの気にしなくていい。わたしたちはまだ学生なんだ。そんなに焦って学校という庇護の下から出ていかなくても、いいじゃないか。彼の兄みたいに、馬鹿なことをして、純粋に学生を楽しんでいてはダメなのか。

わたしはレギュラスがだいすきだし、レギュラスもわたしがだいすきだ。お互い口にはしないけどそれで良かったし、口にするのは、ふたりの最後の時だと、わかっていた。

「好きです、だいすきです、先輩」
「何でそういうこというの」
「先輩だって、僕のことが好きでしょう?」
「嫌いだよ、レギュなんて、嫌い」
「好きです、愛してるんです」

レギュラスの顔が押しつけられたわたしの肩が湿っていく。じわり、じわり、生ぬるいその温度と相変わらず止まらないレギュラスの震えに思考も浸食されていって、わたしはグリフィンドールの阿呆を心の中で口汚く罵ることしかできなくなっていく。憎い。レギュラスがこんな辛い目にあっている間レギュラスの兄は庇護の下笑う。弟に足枷を渡して、どうしてそんなことしていられるの。無理矢理運命をねじ曲げてレギュラスの運命まで変えて、どうして。アイツが苦しめば良かったんだ、レギュラスがこんな風に震えなくても良かったレギュラスが笑っていられる未来をどうして作ってくれないの、家の為に頑張ってきたレギュラスが、どうして笑っていてはいけないの。わたしはレギュラスと幸せになりたかった。

「最期なんです、先輩、お願い」
「いやだ。やだよレギュ。ダンブルドア先生の所に行こう。助けてもらおう。ねえレギュ、」
「先輩、お願い」
「いや!」

強くなる力と嗚咽混じりの声。どく、どく、どっちのものかわからない心音。嗚呼、壊れてしまいそう。わたしたちまだこどもなんだよ生か死か、だなんて、そんなものが目の前に迫っているなんて、おかしいじゃない。突然、包まれていた体温が消えて、肩の重みも消えて、レギュが泣きながら笑っていた。

「先輩、愛してる」

最期に感じた唇の柔らかさと温もりだけを遺して、ねえレギュ。どこにいったの?








100206 ニコ

たまには甘えたい、レギュ?これがお礼だなんて前代未聞だがわたしはやる!いや、なんか普通にあほな話にしようと思ったらこんなことに…!ごめんなさいいい!(土下座)

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