シリウス・ブラックというひとが、わたしは大嫌いです。

黄色い猿、黄色い猿!口説くどころかただわたしをけなしているだけ!付き合えよ。って、なんなんですか。わたしが黄色い猿で珍しいからあなたの彼女リストに加えたいだけでしょう?別に肌が黄色くたって人間生きていけるし足が短くたってそのほうが重心が安定して腰は痛くならないし、とにかく、黄色い猿と言われるのはどうでもよかったけれどこうも顔をあわせる度に言われるのはいい加減やめてほしいのです。その度リリーは怒るのですがシリウス・ブラックはにやにやと笑うだけ。

この間のように言い返すことはなぜかできなくなっていました。

「おい、黄色!」

一人で廊下を歩いていたら前から来たシリウス・ブラックが言いました。ええそうですねどうせ黄色ですよでも今あなたの横にいる女の子の厚化粧で変な白さの肌よりかはいいでしょうね。あれ、わたしはいつからこんなことを思うようになってしまったのでしょう!

清く、正しく、腹を立てず、人様に迷惑をかけず、ひたむきに努力し、笑い、トラブルを起こさず、そうやって生きてきたはずなのに。…黄色い猿、とか英語の発音が変、だのと言われなくても、わたしは彼らを嫌いだったに違いありません。

「本当にまっ黄色なのね!手足も短いし!クスクス」

シリウス・ブラックの腕に絡み付いている豊かな金髪の女の子が笑いました。ぶち。かわいらしいものではなく、おぞましいほど低い音が立ちました。わたしから。デジャヴでしょうか。どこかでその音を聞いたことのあるような気がしました。

「ええ、わたしは確かに黄色だわ。でもあなたの粉をふくほど真っ白な肌よりはいいと思うけど」
「な、何をいってるのよ!?」
「そんなにファンデーションを塗りたくったら肌が呼吸できなくてぼろぼろになるわよ?」
「な……!」

また、わたしの体がすごく遠くになったような感覚がします。どうやらぶち。は、わたしの我慢の限界の紐が切れた音のようです。

女の子は自分の肌に手を当てました。ああ、やっぱり少しだけ、肌に凹凸ができてしまっています。

「大丈夫よ。ちゃんと洗顔して、食事バランスに気を付けていればなおるわ。」
「………何様のつもり!!!」

そう一言言い残して、女の子は行ってしまいました。ああ行かないでください。嫌なひとではあったけれどシリウス・ブラックと二人きりよりはマシだったのに。

「やっとおもしろくなったじゃねえか」

このひとはどうやら、わたしの堪忍袋の緒が切れる、のを、待っていた模様。

「面白い?何を基準に?わたしは全っ然たのしくないわよ。」
「普通は俺基準だろ」
「ばからしいわ。あなたのその優秀な頭はどうやらみかけだけのようね」
「そんな俺にもお前はテストで勝てないだろ?」

神様、どうして、どうしてこんなひとが生存しているんですか…!

「なあ、レイ。俺と付き合えよ」

その言葉にわたしは一度も振り返らずに寮に戻りました。名前で呼ばれたとき、なぜか顔が赤くなるのを感じたからです。図書館から帰ってきていたリリーに泣きついて、また、あの変な感覚があった、と伝えました。顔が赤くなってしまったことは言いませんでした。

「レイ…、あなたすごいわ。我慢の限界がすごく広いのね!私なんて最初にブラックに言われた時点でやつに呪文をとばしてるわよ!」
「え、そんな!ひとに呪文とばすなんて!だめだよリリー」
「ふふ、冗談よ。それじゃああいつらと一緒だもの」



次の日の朝大広間に行くと、昨日の女の子がすっぴん(十分肌は白いです)で、野菜を食べているのが目に入りました。

今日はなんだか良いことが起きそう!



2010/01/03 ニコ

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