「ねえっどこまで、どこまで行くんですか…!」
「アクシオ!」
「えっなに?」

外に出てきても走るのを止める気配のないシリウス・ブラック。何を呼び寄せたかと思えば、少しして飛んできたのは箒でした。

「レイ、乗るぞ!」
「ええっ?ちょっと、む、無理です!」
「いいから、ほら!」
「わ、きゃあっ」

ジャンプして自分が箒に飛び乗ったあと、シリウス・ブラックは繋いでいたわたしの手を強く引っ張って、気がつけば箒の上。ほどかれた手、残った熱の感覚に、今さら恥ずかしくなってきてしまいました。わたしは、さっき、なんてことを、言ってしまったのでしょう!箒は飛んできた勢いのまま空高く、風を切って進んでいきます。眼下には禁断の森がどんよりと広がっていました。

「前に手、まわして」
「無理です!」
「どうして?」
「恥ずかしいに決まってるじゃないですか…!」

すぐ目の前、シリウス・ブラックの背中。確かに今のままじゃいつ落ちるかもわかりませんが、でも、恥ずかしいのです。笑いをこらえているように背中が揺れ、そうしたら片腕が伸びてきました。ぐいと強く、しかしひどく優しい動作で腕を引っ張られて、自然とわたしの腕はシリウス・ブラックのお腹の前で交差されます。

どくどく不規則に動く心臓。ああ!好き!本当に、好き!

「すき、すき、すき、だいすき、シリウス」

溢れた思い、だなんて、そんな可愛らしく形容できません。まるで爆発したように、口から気持ちが滑り落ちていってしまうのです。わたしは恥ずかしいのに、こんなにも恥ずかしいのに、もうひとりの自分が、シリウスを好きな自分が止まってくれません。箍が外れてしまったよう!

「着いたよ、レイ」

降り立ったのは、前に夕日をいっしょに見た、禁断の森の開けた場所でした。

「レイ、俺は、レイが好きです」
「うん、わたしも、シリウスが好き」

好き。なんてすてきな言葉なのでしょう!その言葉があるだけで、すべてを無条件に許せてしまうのです。とてもとても、穏やかな気持ちになるのです。シリウスにぐちゃぐちゃにかき回されていたわたしの心が、凪いでいくのです。

「あと、ごめんなさい」
「え?何がですか?」
「ほっぺ、痛かっただろ?」
「ええ?ああ、痛かったです」
「本当、ごめんなさい」

きれいな手が、わたしの、シリウスに叩かれたほうの頬に触れました。決して暑くなんかないのに、そこだけ、じわりじわり、熱を帯びていきます。

「シリウス、シリウス、好き」
「うん、俺も好き」
「あのね、わたし、リリーに言われて来たんです」
「エバンズ?」
「はい、リリーが『わからないなら本人に直接聞いてみなさい』って」
「え、え?何を?」
「シリウスがわたしのことを好きなのかってことをです」
「ええ?」
「あと、スージーも教えてくれました」
「スージー?」
「前にシリウスといちゃいちゃしてた子です」
「…ああ、レイブンクローの、」

それから、近くにあった切り株に座ってたくさんお話をしました。シリウスは入学式のときからわたしのことを好きだったこととか、外見のことで馬鹿にしてごめんとか、いろいろ、たくさんのお話。

「俺、馬鹿だから、レイに見てほしくて、他の女の子とも付き合ったりした」
「女の子遊びのことですか?」
「女の子あそ…あ、まあ、はい、そうです。」
「おばかですね」
「うん、ごめんなさい」
「でも、もう、全部いいんです。わたしはシリウスが好きだから、シリウスもわたしを好きだから、全部、いいんです」

わたしは今、何よりも、目の前に座るシリウスが愛しくてしょうがありませんでした。気持ちをずっと否定して、隠してきた反動なのでしょうか。好きでたまらないし、ふれたくてたまらないのです。

「レイ」

そんなわたしの気持ちを察してくれたのか、シリウスはぎゅうと抱きしめてくれます。

「シリウス、シリウス、好き」
「うん、レイが好きだ」

ああ、しあわせです!



2010/07/17 ニコ

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