なんだか妙にすっきりした気持ちでした。開き直る、って、今のわたしや、リリーのような状態を指すのでしょう。たくさん現像した写真を一枚ずつ丁寧に包装してからカバンにしまい、いつもより時間をかけて髪をきゅっと丁寧に結んで、足取りも軽く、新しい朝が始まります。ぐらぐらしていた気持ちも一晩ぐっすり眠れば落ち着いて、うん、やっぱり嫌いだわ、と、結論。シリウス・ブラックなんてはげてしまえばいいんです!

「レイ!お「リリー、そろそろ教室行く?」
「そうしましょうか」
「ちょっ「あ、わたしまだレポート終わってないんだったどうしよう!」
「ふふっそれ、来週の月曜日までよ!」
「話を「えっ本当に!?」
「ええ、もちろん」
「だ「なーんだよかったー…」

無視です無視。しょぼんとあからさまに肩を落とすシリウス・ブラックを見て、わたしとリリーはこっそり微笑みあいました。

その日は最初の授業はリリーと同じで、あとはバラバラでした。シリウス・ブラックがわたしの周りをうろちょろしているのはもちろん目に入りましたがそんなの知りません。無視をし続けていると、放課後にはすっかり気配はなくなりました。

「ねえ、アイカワさん!」
「え?あ、…あ!」

廊下をひとりで歩いていると声をかけられました。振りかえれば、そこには色白のかわいらしい、いつかの女の子が!

「あの、私、あなたに謝りたくて」
「えっ?」
「あなたに失礼なことを言ってしまったわ。本当にごめんなさい」

それからその女の子――スージーと言って、同じ学年のレイブンクロー生でした。なんてかわいらしいんでしょう!――はお詫びにと、手作りのクッキーをくれ、それからも何度も何度もごめんなさいと繰り返すので、わたしはいたたまれなくなってきてしまいました。豊かな金髪がとてもうつくしい、スージーを怒る気には到底なれないのです。

「いやっ本当に気にしてないし、あの時はわたしも冷静になれなかったから、」
「でも、私の気が済まないの」
「えーっとじゃあ、間を取ってシリウス・ブラックが悪い、ってことにしておかない?」
「ええ?」
「ね!あなただってあんな男に拐かされなきゃ、っていうより、騙されなきゃっていうか、うん、シリウス・ブラックがいなかったら、わたしたち最初から良い友達になれたはずでしょう!」
「あっあなた、シリウスと付き合ってるんじゃあないの?」

スージーは大きな瞳をまんまるに開きました。驚愕、の文字が顔にぺったりと貼りついているよう。そういえば、シリウス・ブラックにはっきりと別れようとは言いませんでした。というか、あまりの怒りに忘れていました。…でも、まあ、最初からわたしは付き合ってるなんて思っていなかったし、何の関係もないということにしておきます。

「ふふ、あんなやつと付き合うなんて信じられないわ。大嫌いだもの」
「そ、そうなの…?」
「ええ!そうだ、あなたにこれあげる!」

昨日の写真をカバンから取り出しスージーに渡しました。開けるように促し、彼女は恐る恐るといった様子でそうっと袋から写真を抜いて、ちらりと覗き、そして、お腹を抱えて笑いだします。

「ねえ!ねえ!すてきな写真でしょう!」
「ふ、ふふふっすごいのね!ベストショットよ!」

それから、とスージーは笑いながら言葉を続けました。

「私も結局シリウスに遊ばれているって気がついたの。あなたのおかげよ。」
「わたしの?」
「ええ、…これでも本気でシリウスが好きだったから、あなたのことを見るシリウスの瞳の色が違うことぐらい、わかったの」
「?、??」

おだやかに微笑みながら放たれたスージーの次のセリフに、わたしは不覚にも、胸がぎゅう、と締め付けられてしまったのです。

「シリウスが本当に好きなのは、あなたよ」




「レイ、聞いてちょうだい!ポッターの写真、完売よ!これでしばらくお小遣いに困らないわ!」
「………」
「レイ?」
「ねえリリー、わたしなんだか、後悔してきちゃった」
「どういうこと?」
「ちゃんとね、もっと落ち着いて、シリウス・ブラックと話せばよかったのかな、って。」

ポッターくんの写真を売りに部屋を出ていたリリーが帰ってきたのは消灯時間ぎりぎりでした。スージーのソプラノの声が、耳から離れません。

『あとね、シリウスがあなたを見ながらつぶやいたのを、私聞いてしまったの。「俺、何してるんだろう」って。どういうことか私にはすぐわかったわ』

「リリー、今からわたし、すごく自惚れたことを言うけど、聞いてくれる?」

リリーは頷いて、ベットに座るわたしの横に腰かけました。

「シリウス・ブラックは、わたしのことがすきだったの?」



2010/05/29 ニコ

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