泣きそうなレイの顔が、なぜかリリーとかぶった。ああ、ちがう、リリーだったんだ。馬鹿だな、リリーを間違えるなんて。だけどこれでリリーの気持ちをつかみかけた気がする。こんなことしなくても、僕は君をどこまでも追いかけるのにな。落ちていく中でぼんやり思ったけど、もう遅いのかもしれない。杖を動かす力が腕にこめられなかったから何もできない。愛してる人に突き落とされて殺されるって、ああ、なんて悲劇なんだ。すると背中にばちん、と痛くはないけど何かがぶつかって、そしたら僕はどこかの部屋で、リーマスとスネイプに見下ろされて倒れていた。

「あ、れ、僕いきてる?」
「うん。いきてるよ」
「残念ながらな」
「スニベリー…。リリーにポリジュースを作ったのは、君だね?」

二人の顔を見て瞬時に理解した。共犯。それならきっとレイもシリウスに何かしたのだろうか。いつも以上に眉間にしわを寄せてスネイプはうなずいた。だけど僕はもうリリーに会いにいくことしか頭になかった。初めて見るこの部屋に興味がわいたけどどうでもいいしスネイプへの仕返しだってどうでもいい。リリーに、リリーに会いにいかなくちゃいけない。それだけが頭の中を占めていて、僕はリーマスに忍びの地図を借りて駆け出した。

リリーの名前はさっきの塔の近くにあって見つけるのは簡単だった。誰かにぶつかるのも構わず僕は走った。というか、だいぶ下まで落ちていたから階段を登った。クィディッチのときでさえ息が乱れるなんてほとんどなかったのに肺がつぶれるみたいだった。

「リリー」

やっと、階段に座っているレイが見えてきた。まだ一時間はたっていないらしい。僕の声にぴくんと肩が揺れて、何かをしゃべろうと口を開け、そしてまた閉じてため息をついたあと、あきらめたようにリリーは言った。

「…私はリリーじゃありませんよ、ポッターくん」
「ねえ、そのままでいいから、聞いてよ」

まだ肺が痛くて、息の乱れが止まっていない。ああこんな姿をリリーにさらすなんて、恥ずかしい。歩き去ろうしたリリーを呼び止めた。そしたらぴたんとレイは動きをとめた。

「ごめん。君を間違えるなんて」

いっぱい好きだよとか愛してるとか言いながら謝ろうと思っていたのに出てきた言葉はこれだけだった。それがなんだか情けなくて、額ににじんだ汗を痛くなるほどこすってふいた。しばらく間があいて、レイが黒髪を揺らしながら、リリーが赤毛を揺らしながら、振り向く。

「…本当に、ばかよ」

レイの姿だったけれど、僕には確かにリリーの笑顔が見えた。



「……悔しい?」
「ふん、あんなやつのために持ち合わせる気持ちなんてない」
「ふーん」
「笑うな……!」

にやにや笑うルーピンにポッターに抱くのとおなじくらいの殺意が芽生えた。悔しいわけないし、最初にリリーとレイがうまくいくように裏の裏で計画を持ち出したのはこいつだ。ポッターをすぐにリリーのところへやれるように誘導して、レイのポリジュース薬だけ効き目を短くして、ブラックと本気で語らせようと。

「リリーとジェームズはこれでうまくいくよね」
「だめだったら僕はポッターを呪い殺す」
「…レイとシリウスは、どうなったのかな」

まあうまくいってるんじゃないか。と適当に返事をした。そしたら抱きあうブラックとレイの姿が頭に浮かんできて気持ち悪かった。かぶりをふってそれを打ち消すと部屋の隅の細い四角形の穴から写真が出てくるのが見える。僕が何か言う前にルーピンがそれを拾って、悲しそうに顔をゆがめた。

「シリウスはだめだったみたい」

ケーキの山の中で顔を真っ青にしながらブラックがもがく写真。アングルは確かに真上からで、ピントのずれがレイの腕の震えをしめしていた。



2010/03/31 ニコ

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