なんで、どうしてわかったんでしょう。とっさに自分の髪を掴んで確認すると、それは漆黒でした。ああ、そんな、どうして!ポリジュース薬の効き目は一時間。だけどまだ三十分程度しかたっていないのです!セブルスが薬の調合を間違えた?いや、そんなことあり得ません。
「レイ、なんでこんなことしたんだよ」
一人もんもんと考えていたら、いつの間にか近くに来ていたシリウス・ブラックに両肩を掴まれました。顔の近さにひるむことはありませんでした。あの日腕を掴まれたときのようなものすごい力だったので、痛みでそれどころではなかったのです!
「答えろ。なんでこんなこと、俺を騙すようなことしたんだよ」
間近で見るシリウス・ブラックの瞳は、痛みで集中できない脳にも怒りに満ちていることがよくわかりました。そして、ぶちん。今となってはすごく昔の出来事のような。そんな音が、わたしの頭に響きました。
「どうしてですって?そんなの決まってるじゃない!あんたが大っ嫌いだからよ!!」
「なっ…!」
「わたしそんなに心の広い女なんかじゃないわ!あなたのことを無条件に許せるような女じゃない!」
「ゆ、許すって…」
「そんなこともわからないの!?散々イエローモンキーだなんだ言ってきて、今みたいに無理矢理、力づくで迫ってきて、わたしを何だと思ってるの!?人形、おもちゃ?あなたの言うことをなんでも聞く機械!?」
「レイ…!じゃあ、じゃあお前、俺にずっと嘘ついて、俺のこと、好きなふりしてたのかよ!」
ぎりぎりと、ひかない両肩の力と痛みが脳内を浸食していくようでした。好きなふりも何も、どうせ自分は本気なんかじゃないくせに、相手が自分に本気じゃなかったのは気にくわないんでしょうか。わたしは悪くありません。わたしは悪くありません!わたしを差別してきたのはシリウス・ブラックです。悪いのはシリウス・ブラックなのです。彼の目に悲しい色が混じってることなんて、わかりません…!
「嘘よ!ぜんぶ嘘!」
「…っ馬鹿野郎!!」
がちん。目の前が一瞬真っ白になりました。肩の痛みはとれて、かわりにじんじんと疼くのは頬。宙に浮いているシリウス・ブラックの片腕に、ああ、叩かれたんだ。と、他人事のように思いました。ホラ、シリウス・ブラックはわたしにひとかけらも愛情なんて持ち合わせていません。嘘はどちらなのでしょう。禁断の森で見た景色や、手の温かさや。ぜんぶ嘘だったのは、どちらなのでしょう。
「あ…レイ、ごめ「さよなら」
片足で床をダンと踏み鳴らすのは合図。自分でわたしを叩いたくせに呆然とするシリウス・ブラックは、突然なくなった床に驚く間もなく、下に落ちていきました。この下は、屋敷しもべたちに用意してもらった砂糖五割増しのケーキで埋まった部屋があるのです。
じわじわ痛みを増す頬に涙が一粒。二粒。染みていくのがわかりました。
シリウス・ブラックが大嫌いでした。傲慢で、わたしに謝ることもしないで、なのに不意に優しくしたり、だきしめたり、大嫌いでした。少しでも信じたかったんです。わたしが好きだなと思った彼の優しさを、信じたかったのです。彼がわたしのことを本当に好きだって、信じていたくて、だから自分の気持ちをぶつけるしかなくて、欠片でも、彼の中のわたしに対する好意の気持ちを見つけたくて。結局わたしはただのイエローモンキーでした。
本当に、騙されていたのはどちらなのでしょう。嘘をついていたのはどちらなのでしょう。嘘の上に嘘を塗り重ねたのは、
好きでした。好きになっていました。大嫌いで大嫌いで大嫌いで、でも、好きでした。
2010/03/30 ニコ
ああおんなじようなことを何回も言ってる^p^p^