初めてホグワーツ城を目の当たりにしたとき、心臓がぎゅ、って押し潰されそうに変な鼓動を刻んだ。こわいような、たのしみなような。俺は血に抗うことができるのだろうか。そんな不安ばかりが頭の中をぐるぐる回ってた。列車の中でジェームズと仲良くなって、グリフィンドールに入りたい気持ちは増して、それでもやっぱり不安で、大きくて重くそびえるように見えた大広間の扉を睨み付けながら、拳をつよく握った。

「ダイジョウブ?」

たどたどしい言葉。その声のほうを向くと、俺より頭ひとつぶん小さくて長い黒髪の女の子が意味もなく笑ってた。

「怖い顔、ダメ。」

ぎゅうと握られた腕に、その女の子のぬるい体温が伝わって、どきん。

心臓が落ちた。

女の子は言わずもがなレイで、先に組分けをした彼女がグリフィンドールだったから余計にグリフィンドールに入りたくなって、無事に入ることができて、いつ話しかけようか迷っている矢先に「初めまして」だった。えええ、だって、さっき、えええ…。俺の一目惚れの初恋はその言葉でしゅるんとしぼんでいって、見事に砕けた。五分前の思い出が消えたような気がした。

初恋だったんだ。いつかレイに言えるといい。最初は確かに強引だった。無理矢理レイと付き合うことになった。だけど今は中々良い関係を、その、普通の彼氏と彼女、みたいにデートしたりとか、手つないだりとか、ハグ、したりとか、そういう関係を築けてると思う。

だから、レイのためなら俺の時間ぐらいいくらでも割くしエバンズの後ろを歩きながら頭をぐるぐる回るのはやっぱりレイのことで、ああ何言われるんだろうどうしよう別れるとかだったら。自分じゃ言えないからエバンズに頼んだとか。どうしようどうしよう…ジェームズ助けて!

「ブラック?着いたわよ」
「おっおう、」

少し眉間にしわを寄せ教室のドアを開くエバンズのあとに続き中に入る。手が震えすぎて強めにドアを押してしまいばたんと大きな音がたった。びっくりした。「ひっ」「?何か言った?」「いや、何も…」どうしようどうしようどうしようこわい!俺こわい!レイが別れようって言ってたわようふん(あれエバンズってどんなしゃべりかただっけ)とか言われたらなける。絶対泣く。

「こんなとこまで連れてきて何の話だよ。」

異様に震えた声が出た。眉間のしわを増やすエバンズ。ううう、し、心臓が、組分けのときよりつぶれそうだ…!

「どうしてレイと付き合ってるの?」
「は?」
「答えてよ」
「え、どうしてって、」
「レイが東洋人だから?面白いから?言うことを聞くから?」

シリウス・ブラックをここに連れてくるまでの間で、わたしの我慢の限界はすでに越えていました。ふてくされたみたいに、それこそ幼い子どもみたいにわざとらしくドアを乱暴に閉めて、苛ついているような声を出して、ああもう、仮にも一応彼女という立場の人の話なんだから真剣に聞く気はないんですか。やっぱりわたしのただの自惚れだったのでしょうか。シリウス・ブラックのあの優しさはぜんぶ嘘だったのでしょうか。結局わたしはシリウス・ブラックにとって物珍しい黄色い猿だったのでしょうか。

好きになりかけてる、だなんて、馬鹿みたいです。わたしばっかり、悩んでたなんて。

シリウス・ブラックはこれでもかというほど眉間にシワをよせ、苛ついたように後ろ髪をぐしゃぐしゃとかきました。

「エバンズには関係ないだろ」
「関係あるわ!レイはわたしの親友なんだから!親友があなたに遊ばれてるのなんてもう見たくないんです!…わよ!」

嫌でした。冷たい灰色の瞳が。わたしのことなんてこれっぽちも思ってなんかいない、冷たい色。

「なっ…!遊んでるわけねえだろじゃあ俺も言うけどな!お前いい加減ジェームズに答えてやれよ!どうせ好きなんだろ!!」
「それこそあなたには関係ない話じゃないそれはリリーの問題だわ!」
「はあ?お前いつから自分のこと名前で呼ぶようになったんだよ?」
「えっ、なっ、こ、言葉のアヤよ!」

叫びすぎたせいで、頬が熱くなるのがわかりました。きっと今わたしの顔は赤毛に負けないくらい真っ赤になっているに違いありません。

わたしを見るシリウス・ブラックの顔はみるみる驚愕に満ちた表情に変わっていきました。何をそんなに驚くことがあったのか。わけがわからず黙っていれば、次いで聞こえたシリウス・ブラックの小さな、だけど誰もいない埃っぽい教室には確かに響いた言葉に、今度はわたしが驚愕しました。

「………レイ?」



2010/03/25 ニコ

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