「どこまで行くんだい?」
「うんもうちょっと!」
「まっまさか君…!だめだよ僕にはリリーがいるし君にはシリウスがいるだろう!?」
「やだ何言ってるのジェームズ死になよ!」
「え?」
「えっわたし今何か言った?」
「い、いややや?(あれおかしいな僕の聞き間違いかな)」

ああいけないつい本音が。今の私はレイなんだからちゃんとやらなくちゃ!ひたすら階段を上がっていって、上へ、上へ。

「ねえっそんなに人に聞かれたらまずい話なのかい?」
「そうなの!リリーの秘密の話!」
「り、リリーの秘密!!」

ぶほって隣を歩くポッターがふいたから足を滑らせたフリをして鳩尾に肘鉄をくらわせた。そうこうしているうちに目的地。たぶん、ホグワーツ城の最上階、どこかの搭の屋上。

「えっここ?」
「ここなら誰もこないでしょ?」
「うん、まあ、そうだろうけど…」

今日は風が強い。びゅう、風にあわせてレイ(私)の黒髪とポッターのぐしゃぐしゃの髪も揺れる。ハシバミ色の瞳は興味津々に、ホグワーツや禁断の森や湖、ホグズミードまで一望できる景色を見回していた。ここまで来るうちに私が私ってことに気づいたらやめておこうと思ってた。私のことが好きならこれくらい気がつきなさいよ。そんな悪態を心の中で言ってみても届きはしない。

「ジェームズは、本当にリリーのことが好きなの?」
「そうに決まってるじゃないか!」
「本当に?」
「…何かあったの?」

くるくる位置を変えていた瞳孔がレイをうつす。ぽかん、と開いた口が間抜けだ。

本当に、間抜け。

「リリーはね、ジェームズのこと、大っ嫌いなんだよ。心の底から、大嫌い」

これがリリーの秘密だよ。そう言って精一杯、笑ってやった。落ち込めばいい。それで授業が手につかなくなって、テストとか、ビリになればいい。

最初は驚きで見開かれたハシバミ色。眉をひそめて顎に手を当ててわざとらしく何か考えるような仕草をしてから、その目は段々ゆるんでいく。ぽかんと開いた口も、弧を描いて。いつもそうだ。この男はいつも不自然な間を開ける。それが周りの興奮とかムードとかを盛りたてるのがわかってるみたいに。そういうところが嫌い。いつも自分は余裕を持ってて、まわりを自分のペースに巻き込んで、盲目的に、何か欲しいものにむかって突進していくところなんて見たことがない。余裕なんて持たずに、必死になってこっちに手を伸ばしてほしい。そう思うときばかり。いくら嫌いとつっぱねてもにやにや笑って私がいつか自分を好きになると確信してる。嫌い。大嫌い。

次に見たポッターの笑顔は、初めて見るものだった。(今まで見ようとしてこなかっただけかもしれない)



「それでも僕は、彼女を愛してるよ」

目が熱くなった。焼けるように熱くなった。顔も燃えてるみたいに、熱くなった。そして私は渾身の力を込めて、ポッターのお腹に回し蹴りをひとつ。

「い、た…っ!て、う、わあああああ!!」

搭の上の屋上なんてそう広いものじゃない。反動でよろけたポッターは当然、下に落ちていく。

「時間切れよ、ばか」


もっと早く言ってくれたらよかったのに。落ちていくバカが不自然にしゅんと消えたところで涙がこぼれた。



扉のところにつけておいたカメラはばっちりと、レイに蹴られて悲惨な表情をしているポッターを写している。…早く現像して焼き増しして売ろう。それでお菓子をいっぱい買って、(また涙腺が崩壊したみたいだ)レイとセブとリーマスとパーティーをして、(計画は成功したのに、)このやるせなさが消えますように。



2010/03/14 ニコ

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