『できた』
手紙とは言い難い、羊皮紙の端に書かれたその言葉にわたしとリリーは顔を見合せ、次の瞬間ものすごい勢いで身支度を始め談話室を飛び出しました。
「レイ!お「はいはいおはようおはよう!」はよ…?」
「ああ君のうつ「しになさい!」くしさは罪だね…?」
寄ってきたポッターくんとシリウス・ブラックをはね飛ばした気がしたけど、そこは、まあ、やる気!でカバー!です。
「でっ、でき、できたっ、てっほん、となの!」
「屋敷僕のとこに行かなくちゃ!」
「……お前らちょっとは落ち着けよ」
寮からここまで全力疾走してきたわたしの肺はもう限界でした。どうして平気そうにしているのリリー。どうしてそんなに体力がついたの。部屋の真ん中の机の上には、煙を放つ謎の液体。それを認識したわたしの脳はぴたりと思考することをやめました。
「本当に、できたんだよ、ね…?」
あと二ヶ月はかかる、そう言っていたのは確かつい最近の話。
「ああ、僕にかかればこんなもの楽勝だ」
ハン、という効果音がつきそうな顔で笑うセブルス。これからの段取りをぶつぶつしゃべっていたリリーも液体を認識したようでわたしとまったく同じことを口にしました。
「おはよう、もうできたんだね」
「あっおはよう!」
さわやかな笑顔をふりまきながらリーマスも来ました。そして、今日の段取り確認。「いいか、一時間だからな」「大丈夫!がんばります!」「屋敷僕には連絡できたの?」「ええそっちもオーケーよ!」「じゃあ、いきますか!」
(S)シリウス・ブラックと(J)ジェームズ・ポッターをぶっつぶせ(P)計画開始!
「って、これ、飲むの…?」
わたしとリリーの前にはぼこぼこ煙を放つ謎の液体、もといポリジュース薬。勢いでぐわっしぇええい!とここまできたのはいいものの。
「僕の調合は完璧だ」
「いっいや!そうじゃなくて!」
ぼこ、ぼこぼこぼこ!苦そう、不味そう、吐きそう、の三拍子が見事にそろっているこのジュース、を前にして笑顔でいられる勇者がいたらぜひ見てみたいものです。隣にいるリリーも顔が青ざめ、青ざめ、青ざめ、て、ない。
「レイっもうやるしかないのよ!人生なんてノリと勢いだわ!さあいきましょう!」
「え、えええー」
勇者は案外近くに、わたしの隣にいらっしゃいました。人生ノリと勢い。て、いつからそんな人生観になったんですか。頬が髪の色と同じくらい鮮やかな赤に染まっているリリー。ノリ、と、勢い。
ぼこぼこ、ぼこぼこ!
「…………………よしっ!」
並々とポリジュース薬の入ったコップに手をかけ、リリーと深呼吸をし、一気に飲み干しました。
「ま、ず…」
でもやっぱりまずいものはまずくて。喉ごしどぅるどぅる、ああ、胃がむかむかしてきそう…。
ひたすら吐き気を堪えていると、体が熱く、ぼこぼこ、煮えたぎって、
「ほらな、完璧だっただろう」
セブの言葉に顔をあげると、わたしの隣にはわたしがいました。
「ねえブラック、レイのことで話があるんだけど」
リリーもといわたしは、不機嫌そうに廊下を歩くシリウス・ブラックに声をかけました。振り向いた彼の顔にはこれでもか!というほど眉間にしわが寄っていました。多分わたしの話なんかで時間を割かれるのが嫌なのでしょう。予想はしていたけれど、こうも目の当たりにしてしまうとずきんと胸が痛みました。ひとつ舌打ちをして、渋々うなずくシリウス・ブラック。
「…そんなあからさまにされたら、」
「は?何か言ったか?」
「…いいえ、何も。」
リリーは、歩き始めました。
「ポッターくん!リリーのことで話があるんだけど!」
「よし行こう!」
レイもとい私は、気持ち悪い笑顔をふりまきながら中庭でスニッチをいじっているポッターに話しかけた。二つ返事で私の腕をとり歩き出すポッター。ああ、私以外にもスキンシップは激しいのか。ずきん。痛んだ胸。
2010/03/10 ニコ