「……な、何かあったのか?」

珍しい、というか初めてみるセブルスの驚愕の表情に感動している余裕はありませんでした。リリーが泣いてるのを見ていたらなんだかわたしまで悲しくなってきて涙がでてきてしまって二人でぐずぐずになりながら、マダムに奇異な視線をむけられながら図書室を出てきたのです。そしてそのままシリウス・ブラックやポッターくんがいるであろう談話室に行くわけにも行かずここにきました。

リリーが泣いている原因はきっとポッターくんだろうし、わたしの涙腺がしまらないのはシリウス・ブラックのせいなのです。(きっかけはリリーだったけれど)

脳内に浮かぶのは、俺と付き合えと言ったときの、シリウス・ブラックの顔。にやりと笑って、傲慢そうな、良く言って自信のある、悪く言ってナルシストな笑顔。黄色い猿。と言ったときの、わたしをみる侮蔑に満ちた視線。ありがとう、の言葉と赤くなった頬、手の熱さ、体温、真剣なグレーの瞳。どれが本当?どれが本物?

「うぐ、ふ、うえっ」
「レイ、レイなかな、いで」
「り、りぃ、だって、ないて、ふぎっ」
「…とりあえず座ったらどうだ」

鼻水も出てきてそれをすすったら豚の鳴き声みたいな音が出ました。ダムが決壊したみたいに止まらない涙はするすると頬を滑ってそれをふくわたしのローブの裾をびちゃびちゃにしています。リリーも同じようで、エメラルドみたいな瞳から溢れるダイヤモンドみたいな涙をハンカチでぬぐっています。鍋の中を混ぜる手を止めずにでも心配してくれるセブがなんだかおもしろくてリリーとわたしは同時に吹き出しました。

「わっ笑うな!」
「いやっ、だって、セブ、わかんな、ひ、ふぐ、あ、も、だめっ」
「ふふっもうないたらいいのか笑ったらいいのかわからないわ!」

大嫌い。大嫌い。大嫌い。外見だけで差別して、わたしを黄色い猿と言ったシリウス・ブラックが大嫌い。だけど。だけどどもりながらありがとうと言った彼が本当だったら、グレーに灯る光が本当だったら。すき、大好き。シリウス・ブラックが、すき。

今度は抱きあって笑いながら泣くわたしたちを見てセブルスは顔を真っ赤にし一言、ぽつり。

「…僕には、お前らの考えを理解することなんて一生できないだろうな」

女の子はどうしようもなく涙が出てくるときがあるんです。


それから何十分かしてやっと泣き止んだ頃にはわたしの目もリリーの目も真っ赤でした。薬作りが一段落ついたらしいセブルスが紅茶を入れてくれて一息ついて、就寝時刻ギリギリ寮に滑り込み。

「…ねえ。レイは、ブラックが好きなんでしょう?」

シャワーを浴びて髪を乾かしているとリリーからの唐突な質問。リリーもたっぷりした赤毛を乾かしている最中で、その顔はまさに菩薩のような笑顔!

「リリーは?リリーはジェームズがすき?」
「…そうね。うん、すきよ。でもふざけた悪戯するところは大嫌い」

あ、今の顔。ポッターくんに見せてあげたいな。(好きなところと嫌いなところと、両方で大丈夫なんだ。って、当たり前のことに今さら気づきました。)



2010/03/03 ニコ

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