後ろから聞こえてくるポッターくんとシリウス・ブラックのしゃべり声にリリーが眉間にシワをよせました。魔法史の時間。ピンズ先生の念仏のような講義をBGMにして、わたしの意識は溶けていきます。


まわりのひとから見れば地味で大人しくてよくわからないけどリリーといつも一緒にいる子、と認識されているわたしにでも過去に恋のひとつやふたつ、したことだってあるんです。相手を見ているだけで満足するようなぼんやりとした恋心だったのだけれど。もちろん恋人と呼べる存在ができたことはなかったし恋人になりたいとも恋人がほしいとも思ったことはありませんでした。それでもそんな薄い経験でも、恋というものをわたしはしていたのです。

惹かれている。

ものすごい勢いで彼に惹かれているのです。重力に従うみたいに、しごく当然のことのように、一日一日、新しい彼を知るたび、惹かれているのです。まだ好きという感情までには達していない、だけど確かにほのかな恋心が芽生え始めたのをわたしは感じていました。

ありがとうと初めて言われたあの日から、おかしいのはわたしのほうです。いくら空気に流されたからといっても好きになりかけてる。だなんて思うことなどありえないのに。

東洋のちっちゃな島国のイエローモンキー。手足が短くて、かわいくなくて、良いおもちゃ、珍しい猿。シリウス・ブラックの中のわたしに対する認識なんてそんなものでしょう。もしかしたら何か賭けをしているのかもしれません。わたしが彼に本気になるまでの日数、別れるまでの日数、そんな賭けを。だから別れないように、彼から離れられないように、適度にデートをし、きれいな景色をみせて、抱きしめて、そういうことをするのかもしれません。

もし、もしわたしが外国に生まれていて肌が彼と同じように白かったのなら、こんな思いをしなくてもよかったのでしょうか。赤くなった頬とか、手の熱さとか、力強さとか、体温とか、腕の震えとか、掠れた声とか、シリウス・ブラックのことを信じることができたのでしょうか。

「リリーわたし、シリウス・ブラックが好きかもしれない」
「…レイ?何かあったの?」

熱心に羊皮紙に羽ペンを走らせていたリリーは顔をあげわたしのほうを見ました。わたしは目を閉じてその闇の中に浮かんだシリウス・ブラックの顔面を思いっきり殴りました。もやもやを通り越して憎いのです。やっぱり痛い目みせてやらなきゃ気がすまない…!

「リリー、早くポリジュース薬できるといいね」
「ええ、…ええ、そうね」

笑ってみせればリリーが困ったようにうなずきました。ピンズ先生の念仏は続いています。

「さっきのは何でもないの、だから気にしないで?早くポッターくんの眼鏡にたらこ突っ込もうね!」
「ふふ、ばかね」

ふたりで小さく笑って、リリーはまた黒板に向き合いました。

虚像の関係の中でわたしだけが恋している、だなんて、そんなことは避けたいものです。(だからといって彼の引力が弱まることなどないのだけれど)



2010/02/08 ニコ

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