何もかもが、順調です。

屋敷僕さんにはちゃんと頼んだし計画の打ち合わせもばっちりだし人集めも上々、あとはセブのポリジュース薬待ち、なのです。

シリウス・ブラックはとりあえずひたすら平謝りしていたら許してくれました。元々むこうがどうでもいいなんて言うのが悪いのだけどここで別れてしまうことになると計画に不都合が色々と生じるので、とにかく無心で、何も考えずに、謝りつづけました。そのあとリリーとリーマス、セブに二時間ほど愚痴を聞いてもらったのは言うまでもありません。

いよいよ雪もたくさん降るようになってきて、深夜に寒さで目を覚ましてしまい窓の外を見ると禁じられた森まで真っ白になっていました。当然のことながらリリーはまだ寝ています。…それにしても、すっかり目が冴えてしまいました。

本でも読もうかしら。ああでも明かりをつけたらリリーに迷惑をかけてしまいます。少し考えて、本と膝掛けの毛布を持ちカーディガンを羽織って談話室に行くことしました。最初は寒いだろうけれど暖炉に火を入れればすぐにあたたまるでしょう。

「あれ、シリウス?」
「……レイ?」

行ってみれば、すでに暖まった談話室。暖炉の前のソファに人影。シリウス・ブラック。

ごめんなさい一番初めに言ったことを訂正します。すべてが順調なわけではないのです。

「シリウスも起きちゃったの?」
「ああ」
「ふふ、わたしもなの。隣、良い?」
「ああ」

シリウス・ブラックがおかしいのです。おかしいというか、普通なのです。わたしを猿と呼ぶこともあの日、ひたすら平謝りした日から一度もなく、ポッターくんと悪戯もせず授業も上の空、おまけにあまり寝ていないみたい。案の定談話室で夜更かし。

気持ちが悪い!シリウス・ブラックが悩み事だなんて!わたしを散々悩ませてきた男が、悩み事だなんて!

これならまだ傲慢ちきな笑顔を浮かべて女の子をとっかえひっかえしていた頃のほうがマシ。そう思わせるほど、元気がない、のです。いくら嫌いだろうがそんな状況の人を放っておけるほどわたしの神経は図太くできていません。一応、『シリウス・ブラックの彼女』という立場に立っているわけですし。

しばらく適当にページをめくったあと、隣でぼーっとしているシリウス・ブラックに話しかけました。

「何かあったの?」
「いや、別に」

そんなわけないだろうがこんの糞男…!!

…げふんげふん。今のはちょっとした心の叫びです気にしないでください清く正しく腹をたてず人様に迷惑をかけず平和な日々を送るのですそうですそうしましょう。彼がわたしに言う気がないなら、これ以上追求しないほうがいいのです。

なんだか、もやもやしてきました。

ばふ。その音と同時に、わたしの右肩に重みと熱。見てみれば、やはりシリウス・ブラック。規則正しい呼吸と閉じられた瞳。どんだけ早く寝れるんですか…。

パチ、パチ、薪のはぜる音を聞きながら、そのまま本を読むことにしました。耳元で聞こえるシリウス・ブラックの寝息にそれは叶うはずもないのだけれど。ふと、虚しくなりました。わたしも彼も、まわりから見れば『恋人』なのに、わたしにとって彼は大嫌いな対象で彼にとってわたしはただの珍しい黄色い猿。

入学式の日に、黄色い猿と言われ一度怒ってしまったとき以来六年間。またシリウス・ブラックに話しかけられるまでわたしは常に穏やかな気持ちでいられたのです。平穏な、波風たたない、平和な日々。シリウス・ブラックのせいでそれは壊されて、わたしはささいなことに怒りがわいてくるようになってしまったし悔しくて涙が出てしまうときもできたしわけのわからないもやもやした気持ちにもなるしもう、ぐちゃぐちゃ。

シリウス・ブラックなんて、大嫌いです。



2010/01/24 ニコ

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