でも、やっぱりシリウス・ブラックはつらそうでした。その端正な顔を歪ませて、この甘い空気を吸うものかと言うように手で口と鼻をおさえています。ざまーみろ、とちょっとは思いましたが、心なしかだんだん顔の青くなっていくシリウス・ブラックを見ているとさすがに申し訳なくなってきました。

「シ、リウス?気持ち悪かったら外で待ってても…」
「いや、いい。」

……。何がこの人をここまでさせるのでしょうか。このお店にお目当てのかわいい女の子でもいるのでしょうか。(…店員さん、とか?)

色とりどりの美味しそうなお菓子が並ぶ、甘い匂いでいっぱいのお店の中、シリウス・ブラックはふらふらしながらもわたしの横を離れようとしませんでした。何人も他の女の子が振り向いて、中にはわたしを睨んでいたくる子も。(いやわたしは悪くないですこの人がついてきてるだけなんです)

「あ、リーマス!」
「やあレイ、それに…シリウス?どうして君ここにいるの?」

チョコレート売り場の前でリーマスとペティグリューくんに会いました。わたしの横でふらふりしているシリウス・ブラックを見て、リーマスは目を丸くしました。それもそのはず。シリウス・ブラックが甘いものを嫌いという情報をくれたのはリーマス本人だし、予定ではわたしはここに1人でくるはずだったのです。

「…猿が、ここに来たいっていったから。」


猿。に怒りがわいたのは確かでした。でも、頬を赤くしながら、この甘い空気に耐えながら言うシリウス・ブラックは、なんだか、とても誠実そうな人にみえました。




雪のちらつくホグズミード。ハニーデュークスでお菓子を少し買って外に出ました。そしてなぜか、本当になぜか、シリウス・ブラックと手をつないでいるわたし。しかも所謂恋人つなぎ、というやつ。謎です。わけがわかりません。

ただ、手袋を忘れてしまったわたしにこの右手の体温がありがたいのも確かなので、そのまま二人で適当に歩き続けました。

「いつの間にリーマスと仲良くなったんだ?」

ぎゅ、と力がつよくなったと思いシリウス・ブラックを見ると、不機嫌そうにわたしのほうを見ていました。(どうやらずっとわたしを睨んでいたようです。わたしはひたすら前だけを見ていたのでその視線に気づきませんでした。)

「いつの間に、って、どうして?」
「……ん、やっぱいい。」

今日のシリウス・ブラックは、変です。猿呼ばわりされたのも一回だけだし(いや、そんな呼び方なんてされないのが当たり前だけど)、無理してまでわたしについてくるし、さっきから他の人にぶつかりそうになるたび、さりげなくガードしてくれるし、なんだか、やさしい、ような。

「…リーマスは、シリウスとつきあうことになってから、仲良くなったんです」
「ふーん」
「……」
「……」

つながれた手がだんだん熱を帯びてきて、あ、どうしよう手汗が…いやそうじゃなくて、シリウス、の、手も、熱くて、

(このひとは本当に、わたしのことがすきなのかもしれない)

自惚れでしょうか。そう思ってしまいました。




「まあ、お前のことなんかどうでもいいけど。じゃ、俺行くわ」

だから、軽く手をほどき、そう言って去っていこうとしたシリウス・ブラックの背中にとびげりをくらわせてしまったのも、不可抗力だと、わたしは思うのです。



2010/01/16 ニコ

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