Line of demarcation 6
あんぐりと口を開けた柴田に、三上は声を上げて笑った。柴田は今まで上司に溜め口を聞いていたのかと、茫然自失し、頭にはクビという二文字がちらつく。
「俺こう見えても三十路後半。結婚して、家内もいるし中学生の娘と、小学四年生の息子もいる。少なくともお前よりは十歳年上だよ」
にたりと意地悪く笑った三上に、柴田は顔を青くした。
「す、すみません。そんなこととはつゆ知らず、無礼な態度をとってしまいました。申し訳ありません」
そこまで一気に言うと、「これは傑作だ」と三上は手を叩いて笑った。
「少しからかっただけだって、気にすんな」
「……」
柴田は声を上げて笑う三上に再び憤りを感じ、なおも煩く騒いでいる女の子達にも苛立ちを感じた。一本で支えている机は柴田の貧乏揺すりに小刻みに揺れだし、コップの水も僅かに波打っている。
「冗談が過ぎたか」
「かなり」
「それはすまん。今のは冗談だ。水に流せ」
どこからが嘘なのか、本当なのか。それが曖昧で、柴田は思わず舌打ちをする。
「本当は何歳なんだよ?」
「三十路後半だが?」
「……」
二人の話は一向に前へ進まない。
妙な揚げ足の取り合いで、柴田と三上は三十分も口論をすることとなった。当然のことながら、お互いのカレーライスは昼休みを終える前に食べ終わらず、柴田は思いっきり上司となる三上を睨みつけた。
昼休みが終わる直前、柴田が少しでも腹を満たそうと食べた冷たいカレーライスは、思いのほか不味かった。
嘘と冗談の境界線は果たして何処にあるのか。
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文学的要素を意識して書いていた昔の作風。BL要素が希薄。