Line of demarcation 4
「柴田」
同僚に話しかけられ、柴田は打ち込んでいた書類を置いた。
「何?」と顔だけそちらに向ければ、いつもより嬉しそうな同僚の顔が目に入る。
「聞いてくれよ! 超べっぴんさんがこの部署に移動してくるんだってよ!」
「へえー、よかったじゃん」
「お前興味ねぇの!?」
「だって此処社内恋愛禁止だろ。興味有無の前にここ首になったら路頭彷徨うし」
柴田は就職活動に五十件あたって、決まったのが此処しかなかったのだ。それも運が良かったのか、名前を出せば誰でも知っている大手の会社で、柴田の就職活動は奇跡としか思えない結果だった。
だが、その結果も虚しく、蓋をあけてみれば大手だけあってエリートなどごろごろいる。六大学出なんてましてや珍しくもなんともない。当然のことながら柴田は会社に埋もれていった。さして目立つわけでもなく、大きな問題を起こすわけでもない。
しかし、いつ首を切られるか分からないポジションにいるのは確かだ。
リストラというのは、柴田のようなものから順に切られていく。
「けどよー」
「けども糞もねえよ。俺は興味ねえ」
つまんねぇやつだなぁと同僚は渋々自席に戻っていった。女の社員から白い目で見られていることを知っているのだろうか、と柴田は他人のことながら同僚を哀れに思った。