幸せな鳥




「寛……」

「さっきの返事。言っておかないと、お前が前に進めないから」

「寛……」


 俺の手を握って、何度も名前を反芻する。


「俺も好きだよ、隆二。でも、俺は前に進めないから」

「嫌だ、寛……」

「お前に、寛、って呼ばれるたびに、すっごく、甘やかされてる、感じがして、心地良かった。けど、俺が足枷、になって欲しくない」


 飛べない辛さは痛い程よく分かってるから。
 使えない羽のもどかしさ、よく分かってるから。


「だから、俺の事、忘れて幸せに、なって。もしも、今度会って、お前が結婚、してなかったら、お前の事、大嫌いになってやるから」


 隆二がボロボロと格好悪く涙を流す。こいつのこんな格好悪い姿、絶対俺以外知らない。

 今はそれだけで全てが満たされた。

 死に行く冥府への土産はそれさえあれば、三途の川でも何処にでも飛んでいける。



 お前は俺の羽だったよ。足掻く俺の憧れだったんだ。



「な?」


 辛い身体の痛みをひたすらに隠して、隆二に微笑みかける。


「……分かった」



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