色褪せないもの4
傷の手当が終わり、フローリングに落ちた血を雅人がさっと拭う。ちりとりで落ちたガラスをさっと集め、それをゴミ箱にぞんざいに捨てながらも、雅人はこちらをじっと見つめていた。
「お前、俺が何に怒ってるのか分かってるか?」
「勝手に部屋に……」
「勝手に部屋に入った事か?」
その言葉に頷けば、雅人の眉間に深い皺が刻まれる。
「泥棒か何かかと思ったって? 俺が怒ってるのはその事じゃない」
「え?」
じゃあどういうことなのか、と尋ねようとした言葉は出る前に音もなく消えた。
次に聞こえてきた言葉に、全ての音が無音になったように感じた。
「なんで今まで会いにこなかったんだ、寛」
言葉がなくなった。
風もないのに、風が通り抜けたように、背筋がスっと寒くなる。
「いつから……」
「仕草が似ていると思っていたが、確信したのはさっきお前が写真立てを見て呟いた時だ。この近似感の正体がはっきりした。お前、本当に寛なのか?」
怪我をしていない方の手を握られる。
「……」
言っていいのか。言ってはいけないのか。そもそもこんな非科学的な事を信じれるのか。
どうしていいのか分からず雅人を見れば、疑いのない視線がそこにあった。
確信した目。
「そうだよ、兄貴」
握られた手を強く握り返した。
「馬鹿野郎! 勝手に死にやがって。なんでもっとはやく会いにこなかったんだ」
そう泣きながら抱きしめられて、涙が溢れた。