墓参り
ランチを食べたあと、そのまま墓参りに向かった。
霊園に続く駐車場で車が止まり、果物やら墓前に沿える花を持って車をおりる。
「此処で水を汲んで行くのよ」
その言葉に頷きながら、薫がするのと同じように桶に水を汲み、柄杓を2本持って、霊園の奥へと進んで行く。
場所は知っていた。
昔は平地が続いていた霊園も、平地だった場所の多くに数々の墓が並んでいる。
「ちょっとご挨拶してくるから待っててね」
伽耶さんだけ席を外し、雅人と薫について更に霊園の奥に進んだ。
辿りつくと桶を下し、簡単に掃除を始めるのが水無瀬家の墓参りの習慣だった。それは何も変わっておらず、持っているたわしで雅人が水をかけながら墓石を磨いて行く。
「これは薫の曾祖父母の墓だ」
磨きながら、薫のどの家系図に当たるか雅人が説明してくれた。
薫の曾祖父母という事は、寛人だった時の祖父に当たる。二人とも亡くなったのか。笑うとえくぼが印象的な祖母の顔が脳裏に蘇った。生きていれば90歳近くだったはずだ。
「こっちが代々の水無瀬家の墓で、こっちが薫の叔父の墓だ」
そう言われて見れば、水無瀬寛人享年18歳との文字が目に入った。墓の中ではまだ新しめの墓で、他の墓とは違いそこにだけ既にお供え物と花が添えられている。
「薫の叔父さん、まあ俺の弟だったんだが、若くして癌で亡くなってな。お前達みたいにバスケが好きな人だったよ」
「そうなんですか」
俺のお供え物と花を見る視線に気づいたのか、雅人が更に付け加えた。
「薫の叔父さんと仲の良かったやつが、今も月命日にお参りしてくれているんだ。お盆も、また先を越されたな」
「えっ」
そう言葉が漏れ、思わず雅人を振り返りそうになった。父と母であった、源三と里美のお供え物だと思っていたそれは大きく予想が外れて、一瞬狼狽える。
その僅かな動揺を隠すように、「そうなんですか」と墓石を磨く為に持っていた柄杓を強く握り直した。