水無瀬家2

「外暑かったでしょ。今冷たいお茶いれるわね」

 と通されたクーラーの効いた涼しいリビングは昔の面影を大きく残していた。

 壁紙や家具こそは全て新しくなっているものの、梁のある場所、テレビとソファの位置等何一つ変わっていなかった。
 ただ違うのは、昔より大きくなったテーブルとソファ。
 壁際においてあった本棚等は全て綺麗になくなり、スッキリとしたリビングだった。


「おお、帰ったか」


 ソファに深く座り込み、新聞を読んでいた人物が俺たちの帰省に気づいて振り返った。

 その顔を見て思わず、ドキっと心臓が跳ねる。


 ――雅人だった。


 20年近くの歳月からか、髪には僅かに白髪が混じり始めているが、エネルギーに満ちあふれた瞳はそのまま。昔のような少し浮ついた印象はどこへやら、今は油断したらグッと持って行かれそうな強い眼光を目に讃えていた。

 苦労を乗り越えた目。

 力のある実業家の大半は、こんな目をしている事が多い。
 その苦労を知る事も出来ず、どこか遠くなってしまった雅人に、胸が空虚になった感覚を覚えた。


「ただいま」

「今日からお世話になります、小鳥遊伊織です。よろしくお願いします」


 そう挨拶すれば、雅人が新聞を置いて立ち上がった。
 昔よりも大きく見える雅人は、それだけで迫力があった。俺が小さくなっただけなのかもしれないし、醸し出す雰囲気がそう見えているのか。
 多分どちらもだろう。


「ハーフさんか?」

「クォーターって説明した」

「あーそうだったか」


 「最近記憶力が悪くなってきていてな、悪いな」と雅人は笑いながら、俺の頭をぽんぽんと撫でながら、台所でパタパタと準備を進める伽耶さんの方へ向かった。
 頭をポンポン撫でる雅人の癖は何も変わっておらず、目頭がカッと熱くなった。懐かしさに、気を抜けば涙が出そうだった。



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