長い1日の終わりは2
「今日の晩ご飯は?」
「肉じゃがだ」
「肉じゃが!」
煮込んだ肉の甘い香り。
バスケが忙しい薫が晩ご飯を作れる事は稀だが、薫の作る料理は水無瀬家のお袋の味と一緒なのだ。
「好きだろう?」
「ああ、ありがとう! ほんと薫は良いお父さんになれそうだよな」
「そうか?」
「絶対。良い家庭を持っているのが目に浮かぶ」
「そんなに喜んでくれるお前が居るから作り甲斐があるんだ」
人に気を使わせないさりげない優しさの薫に、俺が癒されない時はない。
「忙しいのに、ありがとう」
「お互い様だ。気にするな」
「これ運んで大丈夫か?」
「ああ、頼む」
トレイに、お茶やお味噌汁、炊きたてのご飯を載せてダイニング兼リビングに運んで行く。
最後にエプロンを外した薫が、肉じゃがを机に並べ、いつもの流れで映画をつける。
今日の映画は、変態な帽子屋が登場する有名な戯曲のリメイク映画。
その変態な帽子屋に、一日疲弊した原因を思い出しつつも、薫とのゆるりとした時間に癒されながら、長かった一日は更けて行った。