選択は二者択一
今日は家族総出で俺のお見舞いに来てくれた。なんでも話があるとかで。
久しぶりに揃う家族の、他愛の無い談笑を破ったのは、他でもない俺だった。
「俺、ガンなんだろ?」
俺の言葉に、空気が固まりつく。
ほら、思った通り。
「急性白血病。もう助からないんだろう?」
「お前…誰に?」
最初に口を開いたのは親父だった。アラフィフなのに、所曰くバーコードハゲまで髪の毛は衰退。ビール腹たる、三段に割れたお腹。優しいが、鈍臭い父だった。
「聞かなくても分かるよ。仕事で忙しい時間縫ってまで、俺に会いに来てくれる皆見てたら」
その言葉に、母親が泣き崩れた。「そんな身体に産んでごめんなさい」と何度も何度も、俺を抱きしめながら謝る。
「なんで母さんが謝るんだよ? 俺の運動神経と身長は、母さんの恩恵だろ? 母さんは何一つ謝る事なんかないよ。むしろ、俺が、」
先を紡ごうとして、失敗した。
堪えてた涙が一気に溢れ出して、唇がわなないて上手く音にならなかった。
声を出して泣き喚いた。
母親と一緒に抱き込む様に、兄貴にも抱き締められる。
一頻り泣いて落ち着いた頃、兄貴が病状の説明をしてくれた。
急性白血病。
それ自体ならいくらでも治る見込みはあったらしいが、ガンの進行はおもった以上に早く、リンパ節と肺転移が発見されたらしい。治りにくい箇所への転移。
治療は、延命かホスピス治療かに分かれた。
延命と言っても、どれ位延びるかは個人差がある。ホスピス治療は、痛みを伴わず、死を迎える準備だと兄貴が説明してくれた。
今日は俺に意思決定を聞きにきたらしい。
俺の答えは決まっていた。
「決められた残りの余命を、悔いの無い様に生きたい。出来るなら、普段通りに学校に通って、いつもみたいに」
母親が泣きながら頷く。父親が、母親の肩を抱き寄せた。
「あ、でも、一つだけ我が儘言っていい?」
「一つだけと言わず、何個でも聞いてやるから」
「最後にみんなで旅行に行きたい」