羨ましい?


「薫?」

「薫ちゃん、羨ましいんやろー」


 抱きついていた俺達の間に入ってきた薫に、日下が茶々を入れる。


「羨ましいのか?」

「いや……」


 そうじゃないが、と口を濁す薫に今度は、俺から抱きついた。ずっと運動していたからか、薫のじっとりとした暖かさに包まれる。


「あ、おいっ」

「薫、ありがとう。すごく楽しかった」


 長身に抱きついてポンポンと背中を叩いて離れた。


「い、伊織っ」

「ん?」

「薫ちゃん赤くなっちゃって、初やなー」

「違うっ、暑いだけだ」

「そーいう事にしといたるわ。でも、なんかバスケしてる時の伊織ちゃん可愛いなー」


 そう言われて、この上なくテンションが上がっていた事に気がついた。


「ごめっ、なんかはしゃいで」

「いやいや、ちゃうねんちゃうねん。なんかそうしてると、ちゃんと高校生に見えるわ」


 完全に昔に戻っていたような気がする。
 伊織である事を忘れ、一瞬寛人に戻ったような感覚だった。


「や、老成してるとかそういう事ちゃうねんで? せやなくて……」

 伊織ちゃんらしいっていうか、なんやろ。ともごもごと日下がつぶやきながら考えこむ。


「わかってる。ありがとう」


 その後、日下が顔を赤く染めていたことは、景品を貰いに行った俺が見ることはなかった。


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