汚濁の溜まった水瓶


 !中学生以下の方はバックプリーズ
 !女体化を扱っております
 !なんか下品























 奥村燐を姉に持つ奥村雪男は常に悩みを抱えていた。
 一つは姉・燐が悪魔であり半年後の祓魔師認定試験に合格しなければ処刑されてしまうのにも関わらず、全く勉強が出来ないこと。二つは姉・燐が幼い頃から男性に囲まれて育ったためか高校生にもなって女性であることに無頓着で無自覚であること。どちらも燐に関する案件だ。
 雪男は燐と共有している自室で深く溜め息をついた。今、燐は風呂に入っているため不在であり、故に雪男は一人で悩みと向き合えている。しかし、彼の頭にあるのは先に挙げた二つの悩みのどちらでもない。三つ目にして最大で最長の悩み、雪男が燐を愛しているということだ。家族愛でも姉弟愛でもなく一人の男性として奥村燐という一人の女性を愛している。だが雪男と燐は姉弟でしかも双子という深い血の繋がりがある間柄で倫理的であれば男女の愛など生まれないのだ。
 それでも実際、雪男は物心ついたときから燐を愛していたし、先に挙げた二つの案件も手伝ってそれは日に日に深くなる一方だった。何度も許されないのだからと諦めようとしたが、それはより一層彼女の優しさや強さに触れるのを手伝うだけで、その度に雪男は燐を好きになってしまい意味を成さない。
 かくして雪男は常にゆらゆらと際で水が揺れる今にも溢れそうな水がめを抱えなければならなかった。燐が雪男の本心を知った時、彼女は雪男を避けるだろうし避けなくても今のようにスムーズなコミュニケーションを取るのは難しくなる。
 雪男は弟という無条件で燐の隣に立てる立場を卑怯だと思うと同時に離すまいとしていた。だから絶対にこの本心は暴かれてはいけない。結ばれないことが想いを支えている。おかしな話だが何年も浸っていると感覚は麻痺するようだった。順応性とは時に悲しい。
 廊下を風呂をあがったらしい燐が鼻歌交じりに歩いてくる足音が聞こえた。雪男は考えるのをやめ、燐と入れ替わりで風呂に入ろうと箪笥を開く。風呂あがりの燐は逆上せていて少し肌が赤く、ブラをつけないで冬でも半そで短パン。非常に毒だと思うが注意したらしたで自分の下心がばれてしまいそうだからできない。服を着ているのが唯一の救いだ。長いTシャツだけだったりましてや下着だけで来られたりしたら。

「…どうなっちゃんだろう、僕」
「雪男がどうかなるのか?」
「え」

 聞かれてしまっていた、と、まるで今までの思考すら見られていたかのようにぎくりと雪男は背筋を強張らせた。燐の方を向かず、箪笥に向かって服を漁っている体を整えながらなんとか、呆れたように言う。

「ノックくらいしてよ、盗み聞きなんて気持ち悪いよ姉さん」
「気持ち悪いって…俺の部屋なんだから別にいいだろー?それよりも雪男、服貸してくんね?」
「は!?」

 何を言い出すんだこの姉は!雪男は目的もなく箪笥を彷徨っていた手を止めて燐の方を向き、そして、思いっきり目を見開くと自分のために出した大きめのバスタオルを投げつけた。
 燐がバスタオルを肩からかけ、パンツだけをはいた状態で立っていたのだ。さっきまで考えていた光景が目の前に広がっていてさすがに動揺を抑え切れなかった。惜しげもなく晒された二の腕だとか腰だとか太ももだとかに視線が行ってしまう。いけないことだと燐に背を向ける。バクバクと心臓がやけに煩かった。

「なんでそんな格好してるの…!」
「いや、風呂あがってから服朝洗濯しといたのに気が付いてさ」
「タオルくらい巻け!」
「あちーからやだ」

 そういう問題じゃないのに。燐はやはり雪男を弟だと思っていて、決して自分と違う男という生物だと考えてはいないのだ。改めて思い知ると、覚悟していたはずなのにショックだった。それから無自覚な燐に苛立ちを覚えた。何でこんなに無防備なんだ、人の気も知らないで。激しく揺れる雪男の内心なんて知りもしない燐は急に黙った弟に首を傾げた。

「もしかして独り言聞いたのそんなに怒ってるのか?謝るよ、だから服貸してくれ」
「そういうことじゃなくて…姉さんはもう少し女性としての自覚を持ってよ」
「はあ?自覚ってなんだ」
「そんな格好で僕の前に出てこないとかだ!」
「なんで?別に姉貴がどんな格好しててもなんとも思わないだろ」

 なんとも思わない。
 燐の何気ない一言が雪男の心に刺さった。やっぱり、やっぱり。おかしい気持ちなのだとは分かっていたのに、他でもない燐に気持ちを否定された。ぐらり。大きく水瓶が揺れる。

「……思ってたらどうするんだよ」
「へ」

 低い雪男の声が響く。くるりと振り向いたら雪男が投げたバスタオルを胸の前で抱きしめる燐がぽかんと口を開けていた。雪男は自分を見つめる燐の目から視線を外すことなく彼女に近づく。燐は逃げることもせずただ棒立ちになって近づく弟を見ているだけだ。なにをされるとも思っていない無防備さ。いつもは眩しいだけだが今は心に引っかかって悲鳴をあげる。
 燐の目の前に立つと晒された丸い両肩を骨ばった両手で包み背中と腰に滑らせる。柔らかく腕に吸い付く燐の柔らかな肌に行動がエスカレートしていくのを雪男は見て見ぬふりをした。唯一布で隠された尻まで片手が行くと、グッと力を込めて燐の身を浮かせる。思ったよりも軽く細い身体に触れたいと何度願っただろうか。できればこんな形じゃなくて、もっと、綺麗に叶えたかった、なんて。
 雪男が自分のベッドまで燐を抱えたまま足を向けた辺りで、あっけに取られていた漸く思考が追いついた燐が抵抗を示した。

「ちょ、雪男!やめろっ」
「焚き付けたのは姉さんだ。流石に、僕が何をしようとしてるか分かるよね?」

 高校生の男女の力の差は大きい。ましては雪男は祓魔師として平均よりも上だし、力の使い方もわきまえていた。どんなに燐が喧嘩が強くて男子よりも男らしいと言われいても、その細い手足をばたつかせたところで雪男の前では何にもならない。

「俺たち姉弟だぞ!?」
「そんなの関係ない」

 ベッドに行き着くと朝丁寧にメークした布団の上に燐を降ろし、未だに逃げようとする燐の両腕をつかみ纏め上げると頭上で布団に縫い付けた。雪男は目を伏せたまま燐の顔を見ずに胸元のバスタオルを取り払う。隠されていた年相応の膨らみが現れて、ごくりと生唾を呑んだ。白い肌とピンク色の粒は燐が紛れもなく女性であることを示していて雪男の雄の部分を容赦なく刺激する。そろりと指先をその先端に触れようと伸ばせば、弱弱しい燐の声が雪男の耳を揺さぶった。

「ゆ、き…」

 燐は雪男を見ていた。暗く光る弟の目に素直に怯え、肩を震わせ、恐怖のあまり涙を出すことも忘れて。そこでようやく雪男は燐の顔を見て、ハンマーで殴られたような衝撃を受けた。
 なんてことを。
 サッと冷え切った頭。真っ白になった思考。
 自分は今、この最愛の姉に何をしようとしていた?
 
「ごめん」

 何に対してかは自分でもよく分からなかった。纏め上げていた両腕を開放して、取り去ったバスタオルをかけてやり、雪男は燐から離れた。箪笥のところに纏めていた着替えに、新しく出したバスタオルを重ねて部屋を逃げるように飛び出す。
 
 水瓶の欠片は汚濁に漬かっていた。


[]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -