おもちもちもち


おーもち もーっちもっち、と妙に耳に残る歌のCMを見てもうそんな時期かと二人分の洗濯物をたたむ手を止めた。二つ入りのあれは、冬が近くなると食べたくなる。小さいころに、雪男だいふく、なんて言ってジジイが俺たちに買ってきてくれたのを、一つずつ口いっぱいに頬張ったなと思い出して笑う、21時30分。
雪男はまだ帰ってないが多分もうそろそろ。今夜は珍しく二人そろって任務が無い夜だから、夕飯もまだ食べてない。作りながらちょっとつまんだけど。味見だ、味見。あのころみたいに食後のデザートにアイスの二つを一つずつ食べようかと考えた。なんだかくすぐったくなって来たからよし、買いに行こう、と洗濯物を素早くたたんでサイフを、部屋着の上に着たパーカーのポケットに突っ込んでマンションを出た、21時45分。
一人、三分の道のりを少しかけ足で行く。もうすぐ冬が来るみたいでなんだか寒い。パーカーだけじゃちょっと足らなかった。暖を求めるように駆け込んだコンビニは明るくて優しい。フェア中のおでんからほかほか立つ湯気にひかれる。明日の夕飯はおでんにしよう。雪男がいなくてもクロと一緒にたいらげてやる…いや、いたら嬉しいけど。あいつはなんだかんだ俺よりも忙しいからそれくらいのことで無理して早く帰って来たりされたら困る。別にさみしくもないから大丈夫だ。
どこに向かって言えばいいか判らない言い訳をもんもんと考えながらスナック菓子のコーナーを通り抜ける。その先のアイス売り場に鎮座しておられた赤と白のパッケージを見つけて手を伸ばした。

「兄さん?」
「雪男?」

はてなマークで呼ばれてはてなマークで返す。お互い目の前のものを間違えるはずもないのに、確かめるみたいに。二人しておかしくなって吹き出した。

「ただいま」

クスクス笑ったまま、雪男が俺が大好きな少し低めの声を響かせた。あのころよりもずっと、心を通じさせたときよりも少し、低くなった。ちょっとだけ雪男より高い声で俺も応える。

「おかえり?」
「なんで聞くの」
「いや、ここ家じゃねーし」
「僕が帰るのは兄さんのところだし、いいんじゃない」

雪男は恥ずかしいことを簡単に言う。少し熱い。

「あ、顔赤くなった」

触れて欲しくないこともわざわざ言う。軽く頭を叩いた。

「で、なんでこんなとこいんだよ」
「それはこっちの台詞。兄さん今日任務無かったよね?」
「そりゃ…」

はてさて。なんと言えばいいんだろう。雪男と半分ずつ食べたくてアイス買いに来たなんて、俺が言える訳無い。雪男じゃないのだ。ふむふむ。成長しなかった頭をがんばって動かす。

「アイス食べたくなった」
「ゴリゴリ君なら冷蔵庫にあるよね?」
「…別の、だ!」
「ふうん?」

どもりすぎた俺を変に思ったのか首を傾げる雪男。ジッと、レンズの向こうから碧色の目が俺を見ている。何でも見通すような目。まずい。こういう時は話を変えるのが一番だ。

「雪男は?なんでコンビニ?」
「ん?これ、買おうと思って」

と、雪男が何気なく手にしたのは例のアイス。俺は思わず声をあげた。

「それっ…」
「え?」
「あ、え、いや」
「兄さんも買うの?」
「そうっていうかそうじゃないっていうか…」

つまり、雪男の持つアイスが俺は欲しいのだが、やっぱり恥ずかしくてそんなこと言えるわけない。とりあえず雪男を見つめる。気付け、なんて念を送って。ほら、お前いつも勘付くじゃん。勘付いて欲しくないときに限って!今なら勘付いていいんだぞー。

「どうしたの?」
「……なんでもね−…」

俺の願いは叶わなかった。いまさら一緒のを二人で食べようとは言えない。計画は台無しだ。そもそもなんで同じこと考えてるんだよ。同じこと考えてたのは嬉しいけど今回ばかりはちょっと嫌だ。雪男が買いに来なければ一つしかなかったとか言って一つずつ食べれたはずなのに。がくりと肩を落として諦めて目当てのアイスに手を伸ばす。今度は雪男が声を上げた。

「え」
「…なんだよ」
「兄さんが買うの?」
「……?」

昔ならともかく、祓魔師になって不自由ないくらいに金が入るようになったから、雪男にアイスを買ってもらう必要はないのに、変なことを言う。何だお前おごってくれるのか?と首をかしげたら笑われた。

「二つを一つずつ食べたいんじゃないの?」
「なっ!?なんでっ」
「兄さん判りやすいよ」

あぜんとする俺を置いてレジに向かうわが弟。ってことは今まで悩んでたのを全部わかってたことか?それでわざと自分で取ってとぼけてみたりして。それはそれは、俺で遊んでるみたいだ。ああ、くそ、ムカつく。なんでもない涼しい顔しやがって。俺はレジが終わった雪男に思いっきりタックルした。

「早く言え、ばか!」
「だって兄さん可愛かったんだもん」
「だもん、じゃねーよ、お兄さまで遊びやがって兄ふこーな弟め!」
「…せめて不幸くらい漢字で話して兄さん」

むむ、なんかまた馬鹿にされた。俺たちはコンビニを出る。
1リットルのジュースパックも入ったビニールをかたっぽずつ持って歩く帰り道。寒かったはずの風が気持ちよかった。

おまけ

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