居眠り

!小ネタ集です
!話同士に繋がりはありません
!最初も最後も唐突です


カタリ、と黒板の桟にチョークを置き、つかつかとこちらに向かう雪男を見て、しえみは慌てて隣席に座る燐を揺さぶる。

「燐っ」
「……」

しかし燐はくかあと気持ちよさそうに眠るばかりで、もはやクラスメートは呆れを通り越して感心する。彼は一日のうちのどれくらいを寝ていれば満足なのだろうかと。ついに燐の前に雪男が立って、しえみに代わり燐の肩を揺らす。

「奥村くん、起きて下さい」

乱雑な揺さぶりに燐は薄く目を開く。

「…き、お?」
「授業中です」
「んー…」

ボヤっとした顔で、燐は自らの肩に置かれた弟の手に気がつく。今、その弟は弟ではなく先生として燐に接しているのだが、眠たくて仕方ない燐にはその区別がつかない。ただ、雪男の手だと認識する。と、なぜかにへらっと笑ってあろうことかすりすりとその手の平に頬を寄せた。その無防備さに雪男は頭を思いっきり殴られたように呆然とした。が、次の瞬間を、塾生の誰もが見逃さなかった。雪男が突如としてこれでもかと言うほど甘く優しい表情になったのである。たったの一瞬。しかしそれはなかなか頭から離れない衝撃であるに十分だった。

「…いてっ」

燐が短く悲鳴を上げる。皆がはたと我に返り、雪男を見た。既にその顔は教師の顔で、甘さも優しさも一切ない。

「ノートとらないと後で苦労するのは兄さんだよ、起きて」
「もうちょっと優しく起こせよ」
「それで起きなかっただろ」
「だからって教科書の角はねえ」
「はいはい」

ぶつくさと文句をいう燐を軽く受け流しながら、雪男は再び黒板の前に立った。
約一分ほど止まっていた授業は、何事もなかったかのように再開された。






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