ストーリーテラー


!がっつり死ネタです
!捏造甚だしいです













おにいさんはだれですか

あいつによく似た子供がきいた。ああもうそんな時間が来たのか。碧色の目をした子供。何人目だろう。きっとこいつも前のこいつと同じように俺を忘れてしまうのだろう。そうしてまたこいつは次のこいつを作り出す。長い時間の繰り返し。俺はそのなかのほんの一瞬だけ、こいつの中に存在する。俺はにこりと笑ったつもりでこいつに答えた。

おれはりんだ

パタパタ。音がして、俺はゆっくりと頭を上げた。寝る事に意味を覚えなくなってからずいぶん経つ。だから特に寝ていたわけではなく、ボウっと、天井のシミを眺めていた。ずっと眺めていたら動き出して、もしかしたら俺は一人じゃなくなるかもしれない。そんな幻想を抱きながら、ボウっとしていた。俺は一人だ。一人でしかない。長い間そうだった。走って来たのは碧色をした子供。俺は来てはいけないと言ったし、前のこいつもこいつにここに行ってはいけないと教えただろうに。なあ、お前意外と人の話聞かないよな。

またきたのかよ
うん、りんさんとあそびたいんだ!
そっか

こいつは俺の膝によじ登ってキラキラした目で俺の顔を眺める。別に俺は咎めない。どうせ聞きやしないのだ。ただ、最初の一回目はちゃんと言ってやろうと思う。長い時間の中で決めた一つのルール。少し動かしにくくなった腕でこいつの頭を撫でたら、うりうり、と胸に頭を押し付けて来た。甘えん坊。俺が守ってあげないといけないくらい弱い奴。それでもいつか、こいつも強くなるのだろう。

りんさんどうしたの
ん?
なんかさみしそう
べつにさみしくねーよ
ううん、さみしそう

ああそうだ、お前、意地っ張りなんだよな。多分俺も。だからいつも喧嘩したよな。本当、しょーもない事で。それで次の日にはちょっとギクシャクしながらもなんとか仲直りっぽいことしてさ。変わらなかったな、最後まで。意地っ張りだったからお前さ、俺にどうしても見せたくなかったんだろ。

なんかしてあそぼうか
うん!
なにがいい?
このまえのおはなしのつづきしてよ
おまえいっつもそれであきないのか?
ぜんぜん。おもしろいよ
ふうん

こいつらの思考回路はよく判らない。これくらいなら鬼ごっことか虫取りとか、やりたいことはいっぱいあるだろうに。俺の話なんか聞いて面白いのだろうか。でもまあ、笑って聞くものだから俺は話し始めるのだけれど。この前話したのは確か、そう、草花に囲まれた少女が外に出る話。その前は父親と喧嘩した少年が仲直りをする話。女好きの少年がちゃんと一人の女性を愛した話。家を背負った少年が紆余曲折して立派に育った話。不器用だけど優しい少女が友達を作る話。いっぱいしてやって、大体これくらい話したあたりにこいつは俺を忘れる。

じゃあきょうはおれのとっておきのはなし
りんさんのとっておき?
いちばんとくべつなやつだ
わあっ
ちゃんときいとけよ

お前も、ちゃんと聞けよ。お前の話なんだから。俺はこいつの目を見て話し始める。

そいつはすごいよわむしでなきむしでいじめられてた。それであにきがいっつもたすけるんだよ
ぼくみたいだ
そうだなあ、でも、ほんとうはつよかったんだ
なきむしでよわむしなのに?
そう。そいつはちょっとへんなものがみえた。あにきにはみえなかったけど、そいつにはちゃんとみえたんだ
それってくろい?
くろいかもな
こわい?
うーん、そいつはこわかったみたい
ぼくもこわいよ
じゃあそいつといっしょだな
かもしれない。それで、りんさんそのひとはなんでつよかったの?
そいつはそのこわいものをたいじすることにした。でもたいじするにはちゃんとべんきょうをしなくちゃいけない
おとうさんみたいにぶきをもてばいいのに
それだけじゃだめなんだよ。きちんとしっておかなきゃいけないことがいっぱいある。だからそいつはまずべんきょうをがんばった。それでいろんなひとにみとめられて、こわいものをたいじできた
すごい!
まだまだ、そいつはもっとすごい
え?
じぶんのこわいものをたいじしたら、こんどはほかのひとのこわいものをたいじしようとかんがえた
じぶんでおわりじゃないの?
もしかしたらほかのひとはべんきょうがにがてかもしれないだろ?だからかわりにべんきょうしてあげたんだ。こんどそいつは、ひとをたすけることをがんばった
ぼくもたすけたいなあ
じゃあおまえもそいつみたいにまずべんきょうしないとな
べんきょうはすきだよ
それはいいことだ
りんさんはすき?
おれはあんまりすきじゃないかな
でもりんさんはつよいよ
わからないぜ?おまえよりもよわいかもしれない
りんさんはつよいよ

こいつは強い意志を持っていた。ごめんな、俺は弱いんだよ。お前を犠牲にして生きてしまうくらいに弱いんだ。死ぬのを判ってて死ぬのを見せなくないからって吐かれた嘘を簡単に信じてしまうくらい弱いんだ。気がついたらお前を失って、それでも俺は生きちゃうんだよ。弱いから死ねないんだ。ごめんな、ごめんな。ぽたぽた。こいつの肌に俺の涙が落ちる。俺のとっておきの話をするときに俺は決まって泣いてしまう。びっくりするこいつをよそに、俺は涙をぬぐった。ざらり。――――-あれ。

りんさん?
ああ、ごめんな、ちょっとめにごみがはいったみたいだ
だいじょうぶ?
んー…おはなし、やめていいか?
…いいよ、りんさんがなくのはいやだもん
おまえはいいこだな
とうさんはぼくをわるいこだっていうけどね
それはおまえがちゃんといいつけをまもらないからだ
だってぼくはりんさんにあいたい
おまえつよくなりたいんだろ?
そうだけど
じゃあいいつけくらいまもらないと。だから、もうここにはくるな

俺は俺のルールを破る。二回目の忠告。こいつは碧色の目を揺らした。

あした、りんさんがいまのおはなしのつづきしてくれたら、ぼくもうこない
わかった、だからきょうはもうかえれ
ぜったいだよ!ぜったい、おはなししてね!

ぱたぱた。来た時と同じ音を立ててこいつは帰って行った。はは、俺はやっぱりお前の兄ちゃんだったよ。お前の唯一無二の双子だったよ。俺はお前だった。お前が俺であったように。だって俺は、あの時のお前と同じようにお前に笑顔で嘘を吐いた。俺は死ぬ。いや、悪魔だから死ぬのとは違うのかな。消えるっていうのかもしれないな。メフィストがそうであったように。丁度200年。案外悪魔って正確だ。ざらざらざらざら。砂っぽい。肌が剥がれ落ちていく感じ。ざらざらざらざら。俺はゆっくり目を閉じる。行く先はどこかな。お前と同じ場所がいいな。人間と悪魔じゃ違うって誰かが言ってたけど、もし神様ってやつが万物に平等だったら人間だって悪魔だって行き着く先は一緒なんじゃねえかなって思ってたところなんだ。もし違ってもなんとかなると思う。だって俺お前と双子だし。双子ってなんか特別な感じじゃん。うーん、ざらざらざらざら。体中に風船が巻き付けられて、ふわふわ俺は浮く。だらりと油絵の具みたいな皮膚が床に垂れて消えた。だんだん目がかすむ。石になったみたい。さんにーいちで飛んでいける?飛んでいけたらまっすぐ俺は。

――――― 兄さん

ふらふら宙を彷徨った腕が誰かに捕まれる。なんだよ、お前、遅えよ。何年待ったと思ってんだ馬鹿。すっごい長い時間俺を一人にしやがって。終わったら迎えにいくって終わるのにどんだけ時間かかってんだ。一回動かなくなって迎えにきたりしてさ、ふざけるのも大概にしろ。なんとなく笑った気になって、俺はあいつの名前を呼んだ。

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