明日は


むう、と悩む燐が口を尖らせる。
あまりにそれが可愛らしくて雪男の顔が綻んだ。

「なに笑ってるんだよ」
「だって可愛いんだもん」
「…聞くんじゃなかった」

頬を赤らめて、燐はまた作業に戻る。ゆったりとした夜のひと時。雪男は幸せだと心から感じていた。
唯一の人が、自分の為だけに服を悩んでくれるなんて。男として幸せ以外に何があるのだろうか。

「デート楽しみだなあ」
「別に、ちょっと買い物に行くだけだろ」
「最近出来たアウトレットだってね。色んな施設があって…」
「お前、わざとやってるだろ」

にこりと雪男は笑った。

「だって、真剣に服に悩んでくれるなんて嬉しくて。兄さんも楽しみにしてくれてるんだ、って判るから」
「恥ずかしいな」
「兄さんが好きなんだよ」
「…………ジャケット、青と黒、どっちがいいと思う?」
「黒かな?青も可愛いんだけど、兄さん目立って悪い虫つきそう」

燐の心臓が高鳴る。きゅん、だって。なんて女々しいのだろう。
ああくそ、と一矢報いたくなって、不敵に笑ってやる。

「お前が守ってくれるだろ?」
「お姫様が傍から離れなかったらね」
「じゃあ青にしよ」

燐は嬉しそうに、スカイブルーのジャケットをハンガーラックにかけた。


<終>

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