いってらっしゃい

物音がして、うっすらと燐は目を開けた。まだ薄暗い朝。人影の正体はすぐにわかった。

「ゆきお…」

雪男の動きが止まる。ぼやけた視界の中でこちらを向くのがわかった。格好は昨晩見たトレーナーではなく、塾なんかで着ている黒のロングコート。何となく察しがつく。

「にんむ?」
「うん。ごめん、起こしちゃったね」
「いーよ」

ふらふら。
爆睡中のクロをベッドに残し、燐は雪男の方に歩いていった。見るからに半分ほど寝ぼけている姿に思わず雪男が腕をのばす。と、案の定自分の片足にもう一方を引っ掛けて転んだ。逞しい腕が燐の体を支える。

「まだ3時だから寝てて。軽傷者の手当てだからすぐ戻れる」
「ん…みおくったらな」

すり、と燐が雪男の腕に頬を寄せる。雪男の表情が緩くなった。燐はどうして雪男が笑っているのかよくわからず顔を傾けたが、それがさらに可愛くて、ついに表情は崩れた。ふむ。相手にしないのがいいのかも。燐は勝手に納得して自分のやりたいことをすることにした。

「かがんで」

コートの裾を引く。ご命令どおり身を低くした雪男に、燐はいきなり口づけた。一瞬、雪男は突然の嬉しすぎる兄の行為に驚いたが、すぐに離れかけた頭を右腕で、腰を左腕で固める。
くちゅくちゅ、と舌を絡めると水音がした。やがて、ゆっくりと口づけを解くと、燐は目の覚めきった顔を真っ赤にして睨んでいた。

「いきなり何するんだよっ」
「先に誘って来たのは兄さんでしょ」
「うっ…でも俺はちょっと触れるだけで…!」

寝ぼけていた間のことを冷静になって考えるとそれはそれで恥ずかしい。
一人で葛藤して頭を振る燐を大きな掌が撫でた。

「おかえりのキスも楽しみにしてるね?」
「!」

その後、任務に参加した雪男は酷く上機嫌であったとシュラは語る。




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