りんご


スルスルスルスル。
左手の林檎をくるくる回しながら、右手の包丁でその表面の皮を切り取っていく。
一定の太さを保って、つっかえることなくすばやく剥き取る様は見事としかいいようが無かった。
しかも燐の白い腕に林檎の赤はよく映える。
ううむ、なんとも。燐の向かいで座る雪男は唸った。

「そそるなあ…」
「は!?」

燐はいきなり妙な事を言い出した弟の方を凝視した。しかし、林檎の皮を剥くのはやめない。
変わらず澄ました顔で燐の手元を眺めているが、確かに彼は言った。耳を疑いはしない。―――雪男なら言いかねないからだ。

「おまえ、また変なこといってんぞ」
「兄さんのせいだよ」
「濡れ衣着せんなばか」
「だって兄さんが可愛いのがいけない」

可愛い、だって。
絶対男子高校生に言うセリフじゃないよなあ、とぼんやり考えながらも、燐は決して嫌ではなかった。


「兄さんが可愛くて可愛くて僕のことをおかしくするの」
「お前もだろ?」
「へえ?」
「雪男にそういわれると俺、くすぐったくてしょうがないんだよ」
「ふふ、嬉しいなあ」
「あ、抱きつくなよ、包丁危ないから」
「大丈夫、後でね」
「ん、後でな」

そろーっと雪男が燐が綺麗に切り分けた林檎に手を伸ばす。
め、と丁度あいた左手でそれをはたいた。

「一緒に食べよーぜ」
「じゃあ兄さんキスしていい?」
「はいはい」

雪男は軽く腰を上げて、燐に唇を寄せた。
ちゅ。

「雪男ってキス好きだよな」
「え?兄さんが好きなんでしょ」
「お前が好きだから俺が好きなんだよ」
「逆だと思うんだけどなあ…」
「ちげーよ」
「はいはい、僕はどっちにしろ嬉しいし幸せだからいいけどね?」
「俺も別に雪男とだから好きなんだな、きっと」

燐は籠に盛られた最後の林檎に手を伸ばす。

「あ、ねえねえ」
「?」
「うさぎさんにして」
「いいけど、どした?」
「いや、僕たちみたいだなって」
「ああ、寂しくて死ぬとこ?」
「そ、僕兄さんがいないと死にたくなるよ」
「俺も雪男がいないと生きたくないな」

握られた包丁は皮に立たず、林檎を八等分にした。

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