箱庭ファンタジア


例えば俺が人間だったなら。

「兄さんは元々人間でしょ」
雪男は笑いながらいうが、微妙な表情の陰りを燐は見逃さない。
しかし、気付いてないふりをして言葉を続ける。
彼もまた、それを見通していると感じながら。



例えば普通の学生だったら。

「僕は医者の卵で兄さんは料理人の卵、将来有望だね」
「自分のことよく言えるよな」
さも本当のことのように語りつつも。
"最悪"が頭を過ぎるのは止められない。



例えば両親と四人家族で暮らしていたら。

「兄さんの反抗期はやっぱりひどいだろうな」
「お前なあ… あ、そのうち五人家族になりました、とか」
「僕が兄さんなんておかしいよ」
藤本神父に育てられたからこそ今の自分達がある事を知っている。



例えば俺が女だったら。

「兄さんは兄さんでしょう…女の子より料理できるし」
「料理ならいくらでも作ってやるよ」
兄であることを善しとしたこと、褒めてくれることが少ないので嬉しい。
そしてわかりやすい燐を雪男は心から可愛いと思う。



例えば世界に俺達しかいなかったら。

「兄さんだけ見れるね、今もだけど」
「お、ま…恥ずかしいな…」
「思ったことを言っただけだよ?」
ぎゅう、と背中に回った手が嫌ではないことを語る。



例えばもう一度生まれ変わったら。

「また兄さんを好きになるよ」
「……おれも」
絶対で変わらない事とお互いに言ってお互いが嬉しくて。
どちらからともなく当たり前にキスを交わす。



「さ、もうそろそろ寝よう、明日朝早いんだから」
「えー…もう少し話しねーか」
「………明日の朝腰立たなくしていいの」
「おやすみ!」
「チッ」

つないだ手ははなさない。
どんなもしもよりも素晴らしいと言える今を確かめるように。




---箱庭ファンタジア---



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テーマ「人外ファンタジー」
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