遠距離相愛



※オリジナルの女の子が出てきます、ご注意

















好きな人はいますか。


数えきれないくらいの女性にかけられた言葉。一々顔も、ましてや名前すら覚えていない。それくらい、聞き飽きた言葉。
僕は決まって、なるべく笑って、こう言った。


好きな人はいません。
でも、一生を捧げる覚悟をした人がいます。

と。


反応は様々だ。泣き出す人もいれば、何も言わず去っていく人、それから、納得したように笑う人。最後の様な女性とならば、僕はきっと幸せになれるのかな、と思ったのはお酒が飲めるようになった頃だ。きっと彼女達は分かっていたのだ。
僕のその言葉が偽物だということを。









昔は、全く人が寄らない俺でも、正十字学園で暮らすようになってからは少しずつ話し相手くらいは出来てきて、二十歳を過ぎてからは塾生以外にも酒の席に誘われることもある。やっぱり一緒にいて楽なのは塾の奴らだけど、学校の奴らにも奴らの面白さがあるから、なるべく顔を出す。
それで、多分成人式から一年くらい経った21の日。俺は初めて告白をされた。相手の女の子は高三の時に同じクラスで、少し背が低く大人しくも芯を持った子。名前もちゃんと覚えている。成人一周年記念、なんてそれらしい理由の飲み会の帰り、帰るのが同じ方向で並んで歩いていた時に言われたのだ。好きです。俺は足を止めてゆっくりゆっくり頭まで言葉を運んでいって、彼女はそれを辛抱強く待っていて、俺が理解して大声で驚いたらくすくす笑って付き合って下さいと、真摯な目。俺なんかよりずっと男前でかっこよかった。俺なんかには勿体ない、いい娘。きっと俺の事も理解してくれて、この娘となら幸せになれるな、と心底思った。なのに。


ごめん。


…やっぱりかあ。
なんとなく予感はしてたの。
だから玉砕覚悟。
奥村くんが謝る事じゃないよ。


俺はそれを断って。
彼女はそれでも笑って。
泣いていたのは、俺だった。
勿体ない娘。彼女はそれからしばらくして結婚し、よく似た可愛い子供を一生懸命に育てている。たまに町で見かけるが、すごくすごく、幸せそうだ。
俺はそれを嬉しく思う。











「ただいま」
「おー、おつかれ」

高校卒業と同時に引っ越したマンションは二人で住むには広いが、窓から修道院がよく見えたからここに決めた。本当は修道院に住みたかったけど、シュラさんが既に乗っ取っていたから仕方ない。マンションの玄関からキッチンはすぐで、兄さんの癖のある髪と青い双眼が覗く。

「今日はオムライス?」
「安かったからな」

昔と違って兄さんも僕と同じ祓魔師で、僕のように塾講師はしていないがその分、任務が多い。
サタンを倒してから兄さんのサタンの力は弱まったが、重宝されるのに変わりはなく、確か今日も朝早くに出掛けて行ったはずだ。

「あ、兄さん、口にご飯飛んでる」
「んー、取って」

手は止めずに僕の方を向く兄さん。歳を重ねても、無防備を絵に描いた様な人だ。この明け透けな無防備さが僕だけに向いているのだと気付かされたのはいつだったか。
僕は兄さんの要望を叶えるために、兄さんの口元に唇を寄せる。
リップ音はしなかったが、世間では恐らくキスと呼ぶだろう、それ。

「はい、取れたよ」
「さんきゅー。…ほい、運んで」
「ありがとう」

何もなかったように兄さんは僕に皿をよこす。僕も何も言わない。
僕らの間には何もない。

「ねえ兄さん」
「なんだ?」
「僕たち、兄弟だよね」

兄弟。
兄と弟。
たった一人の、掛け替えのない家族。
血の繋がりがあって、まして僕らは生き写しのように双子だ。

「………当たり前だろ、何言ってるんだ」
「うん」

僕らは何も知らない。
キスの行為も、広い家なのに部屋が一緒のことも、明け透けな無防備さの意味も、生まれてこのかた恋人を作らないことも、互いに向ける独占欲も。
何も知らない。

ふりをする。






遠距離相愛

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